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「ただいま戻りましたわ」

いつ見ても立派な家の扉を開けると使用人の人たちが一斉にお帰りなさいませ!と頭を下げた。ズラァア!と整列して頭を下げる使用人達が神話に出てくるモーセが海を割った時の光景に見えてビクゥッ!と肩を震わせてしまった。

「エレナ!!帰ってきたのかえ、怪我はしてないかえ!?」

「父上様…ええ、私は元気ですわ」

「それは良かったえ。父上はエレナが心配でどうにかなりそうだったえ」

ニマニマと顔を緩めてそう言う父上に心底気持ち悪るッ!と思いながらも私はニコニコと笑顔を貼り付けた。邪魔者がいないところで早くエースとジンベエと話がしたいんだからとっとと部屋にでも引っ込んでいてほしい。内心私がこんなことを思っているのも知らないで…ふっ全くアホな父親だ!

「父上様、わたくし疲れていますの。だからクザンに送ってもらったら少しお休みしますわ」

「疲れているのかえ!?それは大変だえ、医者を呼ぶえ!!」

「寝たら治りますからお医者さんは呼ばないで下さいまし。さぁ行きますわよ」

私の後ろにいるクザンとエースとジンベエにそう言うと私は父上を見事な足さばきで避けて部屋へと向かう。

「ま、待つんだえエレナ!奴隷に烙印を押すんだえ!」

「父上様、わたくし自分の奴隷に痛い思いをさせるのは嫌ですわ」

「だが奴隷に烙印を押すことは昔からの決まりなんだえ」

「昔からの決まりなんて誰が決めたかもわからないことにわたくしが従う必要はありませんわ。この子達はわたくしの奴隷でしてよ」

予想通り烙印を入れろと言ってくる父上を容赦なく跳ね返す。エースとジンベエに天竜人の奴隷である証をつけさせてたまるもんか。

「わたくしの奴隷はわたくしで管理しますから父上様は口出ししないで下さいまし」

「だが…じゃ、じゃあ手枷だけでもいいえ!!烙印は押さなくても手枷だけはエレナの身を守る為に付けさせるえ!」

「それも嫌ですわ」

「これだけは譲れないえ!エレナにもしものことがあればわちきは死んでも死に切れないえ!!」

じゃあ死ねよと心の中で返しといた。くっ…!このブサイクめ、生意気に折れないつもりか!?

「私の奴隷はいい子ですから私に危害なんて加えませんわ!」

「それとこれとは別なんだえ!わちきはまだエレナが赤ん坊の頃に死んでもエレナを守るとアリアドネに約束したんだえ!!」

くぅうう!!折れる気配がないぞこの出荷前の豚め!ちなみにアリアドネとは私の母親の名前だ。確かにそんな様なことを父上が言っていた記憶がある。あれは確か転生して間もない赤ん坊の頃だった。

ここまで言って折れないとなれば仕方がない、烙印を押されないだけマシと思って手枷は受け入れるしか道がない。

「…っわかりましたわ。ですが起爆装置は付けないで下さいまし!間違えてボタンを押して巻き込まれるかもしれないですから」

「わかったえ。起爆装置は付けないように言っておくえ」

「もう行きますわ」

「ゆっくり休むんだえ。父上はエレナの事が誰よりも好きだえ!それだけは知っておいてほしいえ」

もうこの場に用はない。私は早足にその場から移動する。あの豚め、私の言うことを従順に聞くことだけが取り柄なのに!!躾のし直しが必要か?

それに父上が私の事が大好きなんてそんなの百も承知だ。同じ天竜人以外にもそうやって優しい心で接すれば私は父上を純粋に好きになれたかもしれないのに父上のやっていることは時に残酷で。

何人もの奴隷を殺してきた父親を好きにはなれるほど私は器用な人間じゃない。

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