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「これはすまんかった いつの間にか寝ていた」

「いいんですのよ、きっと疲れていらしたんでしょう」

「バグバグもぐもぐ!ムシャムシャ」

食事が運ばれてきたと同時にジンベエの目が覚めた。起きた瞬間、食事を運びに来た使用人に誰じゃ!と声を張り上げるもんだから流石にびびった。特に食事を運んできた使用人は顔を真っ青にしていた。これが世に聞く見聞色の覇気というやつなのだろう。

エースはというと手を休めることなく食べ物を食べ続けている。これはルフィに勝るとも劣らない大食漢だ。気持ちのいいほど高く積み上げられた皿は既に二桁は超えている。エースの食べっぷりを見ているだけで私はお腹いっぱいだ。

「ジンベエちゃんもお食べになって下さいまし 食べ物ならいくらでもありますのよ」

「何から何まですまん ありがたく頂こう」

まず何から食べるのだろうかとジンベエを見つめていると彼は骨つき肉を手に取った。いやお前も肉なんかい!!みんな肉好きだな!しかもアァァ!食べてる姿がっ…とんでもなく可愛い!もぐもぐしてるところを写真に収めたい!

カシャ!カシャ!

「何をしとるんじゃお前さんは」

「はっ!つい身体が勝手に!!」

「お前ムシャムシャやっぱ面白れェなモグモグ」

気づいたら自前のカメラでもぐもぐとお肉を食べるジンベエとしっちゃかめっちゃかでもう何を食べてるかすらわからないエースを写真に収めていた。本能とは怖いものだ!!私は改めて自分の内に秘める欲求に恐怖を抱いた。

ちなみにこのカメラはカメラの中でも特別性能がいいらしく、写し出される写真はどれも高画質であり、まるでその瞬間を切り抜いているかと錯覚するほどの鮮明さだ。流石天竜人だ。何もかもが一級品!

「お二人とも飲み物もお飲みになって下さいまし」

「おう!飲んでるぞ すげェうめェよこの飯!肉なんて」

ガン!!

「!?」

こ、これはァア!食べてる途中に突然寝るというあれですね!?知ってます知ってますとも!今はきっと疲れもあったから余計眠かったんだろうな。スープに顔を突っ込んでいるのも可哀想なのでタオルを持ってきてビチョビチョになった顔を拭いてあげる。

なんて可愛らしい寝顔なんだ!!ドキがムネムネしてしまうではないか!エース、君はなんて罪な男なんだ!?

「心配せんでええ 食事中に寝るのはエースさんのクセなんじゃ」

「そうなんですのね…」

知ってる!けど本当のことを言えないのが辛い!うぅっ、私は嘘で塗り固められた女…なんて罪な女なの!こんないたいけないジンベエに嘘をつくなんて!!私のガラスのハートが痛む。

できることなら鋼のハートを持ちたかった。それならどんなに辛いことでも耐えられたかもしれないのに!

「ジンベエちゃんお食事中ごめんなさい、エースをベッドまで運んで下さるかしら」

「それぐらいならお安い御用じゃ」

「このままだと風邪を引いてしまうし…きっとまともに眠れもしなかったでしょうから今日はゆっくり休んで下さるといいのですけど」

「お前さんは天竜人なのに優しいんじゃな」

「そんなことないですわ そしてジンベエちゃん」

「なんじゃ?」

「わたくしの名前はエレナですわ。その…もしよろしければ名前で呼んで下さると嬉しいんですけれど」

「わかった これからは名前で呼ぼう」

「ありがとうございまし」

晴れて名前呼びになった!意外と名前を呼ばれないというのは少し寂しいものがあるのだ。特に嫌がりもせずに名前呼びを了承してくれたジンベエのなんと優しきことか。

次はエースの番だ。いやでも考えろ、エースにエレナなんて呼ばれたら私はどうなってしまうのだろうか。二人の前で鼻血を出して倒れるなんて姿はできれば遠慮しておきたいのだが。

決めた。エースに名前を呼ばれるまでに耐性をつけておこう。

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