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「痒いところはございませんか?」

「おう。あーそこ、そこもっと強めにしてくれ」

「わかりましたわ。えっと、この辺かしら?」

「ちげェよ、この辺だ」

もしゃもしゃもしゃと泡立つエースの頭を洗っている最中。突然エースの大きな手が私の腕を掴んで強めにしてほしい場所へと持って行く。

「ここ?」

「そこだ!お前の手ちっちゃくて気持ちいんだよな」

「気持ちいなら良かったですわ。他に何か不自由なことはないですか?」

「とくにねェ それよりすまねェな。自分からお願いしといてあれだが大変だろ」

「そんなことありませんわよ!これくらい主人として当たり前ですわ」

「奴隷の頭を洗ってやる天竜人がどこにいるんだよ お前は本当にいいやつだな」

「奴隷だなんて…わたくしはエースを奴隷にしたくてあそこから連れ出したんじゃありませんのよ。もちろんジンベエちゃんも」

「そりゃ知ってるけどよ。それにしてもお前は他の天竜人と違いすぎるんだよな なんでだ?」

エースが顔を上にあげて私を見上げる。どうしてだなんて聞かれても前世の記憶がありますなんて言えるわけないし…!

「わたくしは天竜人なんて肩書きを背負っていることを今まで恥じていましたわ」

「恥じ?」

「ええ。世間一般の認識通り天竜人は傲慢で低俗で…一人では何もできないくせに威張って簡単に人の命を奪う大悪党なのに。私がそんな一族の一員だなんて、恥ずかしいですわ」

そう。たかが世界政府を創ったくらいでこの世界の頂点にでも立ったかのような傲慢っぷりは自分が実際に天竜人になって改めて実感したことだ。

前世の記憶を持っていたというか転生というか、とにかく私が普通の一般的な思考の持ち主で本当に良かったと思っている。周りの天竜人はみんな頭の狂った狂人のような思考回路の持ち主だから。

「おれも天竜人ってのはお前の言う通りそういう奴ばかりの集まりだと思ってた」

「そうでしょうね」

「でもそれでお前が引け目を感じる必要はないんじゃねェか?」

「え?」

「お前さっき天竜人で恥ずかしいって言ってただろ?他の奴らは知らねェけどお前は普通の天竜人と違ってむしろおれみたいな大悪党を助けちまうぐらいのお人好しじゃねェか」

「でも、それは私のただの気まぐれかもしれないじゃないですか」

「気まぐれじゃねェよ おれとジンベエの為にお前らの食うような豪華なメシ食わせたり寝てるおれの身体を拭こうとしたり、今こうしておれを風呂に入れてくれんのもそうだ」

「…エース」

「気まぐれの一言でできるようなモンじゃねェ お前は優しいし、人を思いやれる女だ」

エースが真剣な瞳で私の目を見つめてそう言った。私はあの自分勝手な天竜人と違うとは心の内で思っていたが、他人から言われるのと自分で思ってるのには少し違いがある。

こうしてエースに面と向かって言われるとこう、今まで知らず知らずのうちに抑え込んでいた何かが刺激されてなんだか泣きたくなってくる。

前世よりかなり涙脆くなった私はまたここで泣くわけにはいかない!とニコッと笑った。

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