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「えへへ、エースは嬉しいことを言って下さるんですのね」
「なんで笑ってんだよ」
「なんでって、」
「お前はまだガキだし泣きたい時は素直に泣けよ。そんな泣きそうな顔で笑うな」
真剣な眼差しでそう言ってくるエースに段々と視界がぼやけてきて、次の瞬間には私の目からポロポロと涙が零れ落ちていた。
「ううっ…本当にわたくし、なんで天竜人なんかに生まれてしまったのかずっと考えてて…!」
「ああ」
「天竜人っていうだけで恨みや憎しみのこもったような目で見られるのがとても嫌で、私は何もしてないのに…!」
「そうか、辛かったよな」
ぽろぽろと溢れてくる私の涙をエースが指で掬う。いつの間にか私を抱きしめてくれていて、温かい手で背中をポンポンと叩いてくれている。まだ出会って日も浅いのにどうしてこんなにも優しいのだろうか。
確かエースはすぐ泣く奴は嫌いなはずなのに。
「エースは泣くなって言ったり泣けって言ったり…忙しい人ですわ」
「はははっ、悪かったな。お前があまりにも泣きそうな顔して笑うからよ」
「うっ…しょ、しょうがないですわ!わたくしはまだ10歳ですのよ」
「そうだな。まだ10歳だもんな」
ニィと悪ガキ顔負けの表情で笑うエースにムッとして口を開く。
「ふん、私がいい女になって後で後悔しても遅いんですのよ?」
ふふん!いつまでも私をガキ扱いするならこっちだって考えがあるんだ!
「問題ねェよ いい女になったらおれが掻っ攫ってやる」
「んなっ…!」
ひゃあああ!!か、掻っ攫ってやるですって!?え?今すぐにでも掻っ攫ってエースのお嫁さんにして欲しい!!
「わたくしそんな都合のいい女じゃないですわよ!」
こ、この忌々しい口め!エースがお嫁さんにしてくれるというのに何を血迷った事を言っているんだ!
「へェ…おもしれェじゃねェか」
面白くないぃい!挑戦的に笑う顔がかっこよすぎてツライ!この状況は私の鼻が危ない。なんとかこの状況を打破しなければ!!
「もう。そんな事より次は身体洗いますわよ」
「おう。ありがとな、助かる」
「いいんですのよ」
「やっぱりコレつけてると力が抜けて敵わねェ」
「そうですわよね…私、もう一回父上に掛け合って見ますわ」
「おい、別にそういう意味で言ったわけじゃねェよ」
「少しでも辛いなら本当のことを言って欲しいですわ」
「そりゃあるよりない方がいいけど、いくらお前でも流石にそこまではできねェだろ」
甘い、甘いな!砂糖菓子のように甘い!父上の扱いを熟知している私をなめてもらっては困る。いや、前の手枷騒動は想定外だったけど今回はいける!そんな気がする。
「ここは安心してドーンとわたくしに任せて下さいまし。心配はいりませんわ」
「そこまで言うなら任せる。…けどいいか、無茶はするなよ?」
任せなさい、エースの為ならたとえ火の中水の中!ジンベエは能力者じゃない為ただ手枷をつけてるだけだがエースのは海楼石入りだ。常にそれをつけてるのは辛いだろう。
ふふ、今こそ私の腕の見せ所だ!!