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エースをお風呂に入れてあげてから数日が経った。私の手元には海楼石が入っていない手枷がある。ふふ!言わずもがなエースのである。父上は相変わらずチョロかった。
あまりのチョロさに思わず鼻水が出そうになってしまった。すかさず啜ったが。
「すげェなエレナ!これ例のあれだろ?」
「えへへ、そうですわよ?どうかしらエース、少しは私を見直しました?」
「おう!本当にありがてェ 恩にきる」
くっ…!そんなドストレートに感謝の言葉を口にするエースのなんと育ちの良いことよ!!確か礼儀作法とかはフーシャ村のあの人に教えてもらったんだよね、えーっと………。思い出せない。喉まで出かかってるんだけどなぁ。うーん…。
「例のあれとはなんじゃ?」
「海楼石なしの手枷ですわ。ずっと海楼石の手枷を付けているのは可哀想なので少し父上に相談しましたの」
「ふむ…じゃがお前さんが相談しただけで海楼石を取りやめるというのはなんとも信じ難い…」
「あら、何を言うのかしらジンベエちゃんったら!あのクソ豚はわたくしの従順なる下僕も同然の家畜でしてよ?」
「そうなのか…(クソ豚?)」
「へェ、お前家畜飼ってんのか?」
「ええ。これが少しばかり役に立つ家畜でしてね おかげでエースの手枷もこの通りですわ!」
「おお!力が抜けねェ!」
「でしょう?」
肩をコキコキと鳴らしながらエースが嬉しそうな顔で私を見つめる。はぁ、幸せというのは今この瞬間のことを言うんだろうな。
喜ぶエースとそれを見てフッと笑うジンベエを見ながら癒されているとプルプルプル、と部屋に備え付けてある電伝虫が鳴った。
「?一体誰かしら。もしもし」
「ご無沙汰しております、エレナ宮。インペルダウン署長のマゼランです」
マ、マゼランさんだと?一体何の用だ!?まさか私の思惑に気づいてエースとジンベエを返せとでも言うんじゃないんだろうな!?というよりなぜ私の電伝虫の番号を知っているんだ?私教えたっけ。
「署長!エレナ、署長のお声が聞けてとても嬉しいですわ」
「ブひゃあー!電話越しでも留まることのない可愛さ!嫁に欲しい!」
「うふふ。それで、今日はどうしたんですの?」
「ああ、そうでした。ゴホンッーーそれが、まだ世間に火拳のエースがエレナ宮の奴隷になったと言うことが発表されていなくてですね」
「何か問題でもあるのかしら」
私の電話越しの相手がマゼランさんだとわかるとエースとジンベエは表情を一変させ、真剣な顔つきで私を見つめる。
「それが問題がありまして、エースの公開処刑をする予定だったのはご存知だと思いますが」
「ええ」
「その影響で”麦わらのルフィ”が我がインペルダウンに侵入して来たのです」
……?な、に?ルフィが…インペルダウンに侵入!?ーーそうか!私がエースを奴隷にしたと世間は知らないからルフィはエースがまだインペルダウンに投獄されていると思ってるんだ!まずい!!これは非常にまずい!
「エースを助けに来た、おれはエースの弟だと喚き散らすので一応エースの主人であるエレナ宮にご報告をと思ったのですがーーエレナ宮?」
「しょ、しょしょ署長!」
「?」
「?」
私の焦り具合を目の前で見ているエースとジンベエが揃って首を傾げる。くっそぉ!次から次へと厄介ごとが!!
「いいですの?その”侵入者”は生け捕りで!間違っても殺さないで、ついでに暴行も加えないでいて下さいまし。わたくしが今からそちらに向かいますわ」
「え?エレナ宮自らこちらにいらっしゃると?」
「ええ!モタモタしている暇はありませんのでお電話お切りしますわね」
電伝虫を切って一度頭を整理する。…た、大変なことになったぞ!一大事だ!急いでインペルダウンに向かはなくては。私は未だかつてないほどのスピードで電伝虫を父上に繋いだ。