03
もぐもぐ、サクサクとアフタヌーンティーのお菓子を食べていると父上が紅茶をズズッと飲みながらそういえば、と切り出した。
「近々あの忌まわしき海賊王の息子が公開処刑されるらしいえ」
「もぐもぐもぐ…、もぐ…、」
夢中で食べていたマカロンを途中で落としてしまった。ポロリと私の手から転げ落ちたマカロンに気づかず父上が続ける。
「フン、いい気味だえ!あんな世界のクズが生きてていいわけがないんだえ」
「海賊王の息子が死ぬなんて喜ばしいことそうそうないアマス」
今度は右手に持っていた紅茶のカップを床に落とした。
ガチャン!
「エレナちゃん!大丈夫アマスか!?」
「大丈夫かえ!!怪我はしてないかえ!?」
流石に気づいた両親が私を心配そうに見つめる。ああ、そうだ忘れていた。なぜこんな大事なことを忘れていたんだろうか。エースが死んでしまうってことを。
「父上様」
「ど、どうしたえ!?」
「わたくし奴隷が欲しいですわ」
そうだ。こうすればいいんだ。直ぐに浮かんで来た案に期待を膨らませる。私は天竜人。この地位を利用すれば、もしかしたら!!
私の言葉を聞いた父上は一瞬マヌケ顔を晒してからニコォっと笑った。
「そうかえ!やっとエレナもその気になったかえ 父上は嬉しいえ」
「はい それでその…奴隷のことなんですけれど、どうしても欲しい奴隷がいますの」
もじもじと父上を見上げながら言う。
「むふふ わかったえ。父上がエレナの為にどんな奴隷でも手に入れてみせるえ」
「わたくし 火拳のエースが欲しいんですの」
お願い、いいと言ってくれ!!エースの命がかかってるんだ。無理とかダメなんて言ったら本当の本当に嫌いになってやる!私がそう言ったきり驚いた顔をして黙っている父上にえいっ!と抱きつく。
普段ならこんなことは死んでもしない。だけど今この瞬間で私が動かなければエースは死んでしまう。この世界に生まれたなら私はエースを死なせたくない。好きなキャラクターだったのもそうだけど私は彼の仲間を思う気持ちの強さに前世心を打たれたんだ。
「エレナ…!父上の事がそんなに好きなのかえ!!」
「ええ 大好きですわ!でも…大好きな父上様だけど、エレナのお願い聞いてくれないと嫌いになっちゃうかもしれませんわ」
「なッ!!それはだめだえ!絶対に!」
「わたくしも父上様の事嫌いになりたくありませんわ。ですからエレナのお願いを叶えてくださいまし。優しい父上様ならエレナのお願い聞いてくれますよね…?」
抱きつきながら上目遣い攻撃をする私に父上がデレデレと締まりのない顔をする。そして物凄く躊躇いながらも私の顔を見て言った。
「火拳のエースは海賊王の息子だえ それだけで罪深い男なんだえ」
「……」
「本来なら出来ない事だがエレナが初めて欲しいと言った奴隷だえ」
「……!!」
「エレナの為に父上がなんとかしてやるえ」
まさか、本当にエースを救えるとは。それもこうも簡単に。本当に天竜人は凄い。それと同時に怖くなった。私のほんの些細な一言で生死が決まる世界だ。怖くて当然じゃないか。
だけど何はともあれ、これでエースが死なずにすんだということに私はただただ安堵した。