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「エース!」
「っと、どうした 何かされたのか?」
バーの扉を開けた瞬間私はイノシシのごとくエースに突進した。大きな腕で抱きとめてくれるエースにすりすりと擦り寄る。
「ううん、なんにも。ただエースにギューってしてほしくて。嫌だったかしら?」
「嫌じゃねェよ」
頭を撫でるエースの手がとても優しい。ああ、この手!レイリーの数々の試練をくぐり抜けてきた男の手もよかったけどやっぱり私はこの手が一番落ち着く。男らしくゴツゴツしてるのに綺麗でもう言うことなしだ。
「ハハハ、やはりこうして見ると若さとはいいものだな」
「レイリーには大人の魅力がありますから、若さだけが全てではないと思いますわよ」
「キミは嬉しいことを言ってくれるな。ここまで口が上手いと本当に10歳なのか疑いたくなるよ」
またまた肝が冷えるようなことを言うレイリーに私の頬がひきつる。実はレイリー、気づいてるとかないよね?なんだかここまで洞察力に優れているとハラハラしてしょうがないよ。
「確かにお前さんは少し大人びているところがあるな 頭の回転もその歳にしては早い」
「天竜人って考えがなさそうに見えるけどエレナちゃんは頭がいいのね」
「下手したらルフィより頭はいいかもな」
「む!失敬だぞエース!」
「おっ 失敬って言葉知ってたのか!」
わちゃわちゃとした兄弟の戯れる様を目の当たりにした私よ。もう眼福です。ここに参謀総長様が加わればもう、考えるだけでにやけそうになる。
見たい…!はやく三兄弟揃っているところが!
「してエレナ、お前さんの言ってた用事は終わったのか?」
「ええ、バッチリ終わりましたわ」
「終わったならよかった わざわざ外にまで行って話す内容じゃから相当大事な用だったんじゃろう」
「え、ええ…!おほほ」
世の中のお父さん顔負けのお父さん顔を醸し出すジンベエに私は素直に頷いて喜べないことが気がかりだった。
別にルフィの修行をレイリーに頼むことをみんなに内緒にする必要はないんだけどさ、なんかこう原作を知ってる者としてはそういう物語に大きく関わる事に敏感なんだよ!
私は、もし私のせいで物語が大きく変わっちゃったらどうしよう、えーん!しくしく!みたいな悲劇のヒロインじゃない。それに悲劇なんて私に似合わないし。私はこの世界で生まれてちょーっと前世の記憶があるだけの可愛い女の子。物語を変える権利はある!なぜなら私はこの世界の人間だから!
ふふんと少し誇らしげな顔をしているとシャッキーと目があった。
「ふふっ 一人で百面相してるわよ?」
「ひ、百面相!?そんな、私変なことなんてなんにも考えてないですからね!」
私の意味不明な抗議にニコッと微笑むシャッキーは誰がどう見ても美魔女だ。
私は思っていることが顔に出やすいから気をつけなければ…!
「エレナちゃんってホント面白い子ね 気に入ったわ」
「えへへ、ありがとうございまし 嬉しいですわ」
私は思った。これはいける。これはいけるぞ!男女問わずオールハーレムを作ることができる!私ったらもしかして人に好かれる体質なのかしらぁ!困っちゃう。むふふふ!
「あうっ!」
おでこを押される感覚がして焦点を合わせると目の前で人差し指をチラつかせながらいたずらっ子のように微笑むエースがいた。
「すまんすまん お前があまりにもマヌケヅラしてるからつい」
「マ、マヌケヅラですって!?レディにそんな失礼なことを言うエースにはこうですわ!」
マヌケヅラと言われた仕返しにこちょこちょとエースをくすぐってみるがやり方が違ったのか全く効かず、逆にこちょこちょをされ返されたという嬉しいような悔しいような感情を覚えた。
いつかこちょこちょでエースを唸らせるぐらい腕を磨こうと私はこの日決意した。