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そろそろ船に着きそうだ。
私は息を吐きながら心を落ち着かせるため、心臓に手を当ててその場に立ち止まった。

「急に立ち止まってどうした?」

「なんじゃ お前さんまさか腹でも壊したか」

突然立ち止まった私を不思議そうに見つめる二人の顔はとても優しい。そんな優しい二人だからこそ、私はやらなければいけないのだ。

「ここから先はわたくし一人で行きますわ」

「はァ?どういうことだよ」

「何をバカなことを言っとるんじゃ」

「バカなことじゃないですわ。今日をもってあなた達を奴隷から解放します」

微かに震える唇に情けなく揺れた声。だめだ、こんなんじゃ行かないでほしいって言ってるようなもの。元々私は二人の命を助けたいがためにインペルダウンに行き、彼らを奴隷にしたんだ。

この別れは必然なんだから悲しむな、私。悟られてはだめ。

「解放ってなんだよ 少しいきなりすぎねェか?」

「いえ、いきなりじゃありません。そのために手枷だってただの鉄にすり替えてきたんですもの。わたくしは本気ですわ」

「あの時のあれはそういうことじゃったのか」

そう、ルフィを助けるべくインペルダウンへ向かう直前に私はセンサー付きの手枷をただの鉄にすり替えておいたんだ。二人を解放するいいタイミングだと思ったから。

ならシャッキーのバーでそのままエースとジンベエに話して置いてくればよかったのではと思うかもしれないけど、お別れの時はやっぱりこの三人で別れたかったという私の最後のわがままであったりする。

「エレナ、お前はなんとバカなことをするんじゃ。それではお前さんの立場が危うくなるじゃろうが」

「そのことでしたらご心配なく。わたくしの口が上手いのはジンベエちゃんも知っているでしょう?何か言ってくる輩を丸め込むぐらい簡単ですわ」

「だとしてもじゃ 一度主になった人間。それも命の恩人がワシらのせいで非難されると知ってあっさり見捨てることなどできるか」

な、なんでこうも仁義にあついかなぁ。こんなこと言われると私の決心が鈍るじゃないか。いや、鈍ってたまるか。私はもう決めたんだ。

「ジンベエの言う通りだ お前勝手におれとジンベエを奴隷にしたかと思えば今度はポイ捨てかよ エレナ」

ポ、ポイ捨て!?ポイ捨てとな!?いやいや私がエースをポイ捨てするはずないだろう!どっちかといえば私がポイ捨てされる方だ!

「コホンッ…ポイ捨てだなんて人聞きが悪いですわ。私はーー」

「エレナ宮がお帰りになったぞーー!道を開けろォ!!」

「ん?なんじゃもう帰ってきたのかお前ら。早いなァぶわっはっはっは!」

まずい、船はもう少し先だと思ってたのに案外近くだったらしい。くそ、海兵の人達が気づかなければ穏便に済ませられたのに…!しかもなんか知らないけどガープさん笑ってるし。

「見ての通り、時間がないんですの。わかってくださいまし」

「言ってる意味がわからねェな」

「だ、だからっ」

「お前はそれでいいのかよ エレナ」

遠くで天竜人様がお帰りになられた!とか道を開けろとか聞こえる中、私の意識は静かにそう問うエースに向けられた。

だめ、ここで甘えたら一生エースとジンベエに負担をかけてしまう。未来ある二人には天竜人の奴隷なんかじゃなくのびのびと自由に生きてほしい。それが私の願いなんだから。

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