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「何度も言ってるでしょう!もうあなた達はいらないの!邪魔だからもう解放するって言ってるのよ!!」
「なんだ?エレナ宮が声を荒げてるぞ」
「邪魔だとかなんとか聞こえたが、火拳のエースと海峡のジンベエに向かってか?」
「だとしたら奴隷から釈放か。ならまたインペルダウン行きだな」
海兵の野次馬達がわらわらとそう話す中、私は視線を逸らそうとしないエースから無理やり目を逸らした。
「ガープさん!ちょっとこっちに来てくださいまし」
「ほいほい なんじゃ、どうした。喧嘩か?」
「喧嘩なんかじゃないですわ。ただ、この二人やっぱり私の奴隷にはいらないからここに置いて行ってほしいんですの」
この場にいる全員、わざと海兵の人達にも聞こえる声でそう言うとガープさんは何かに勘付いたのか口角を上げた。
「エースとジンベエをか?また急じゃな」
「急でもなんでもいいですから。ちょっと耳を貸して下さいませ」
そう言ってガープさんをしゃがませて私はその耳に口を寄せた。
「ガープさんには嫌な役を押し付ける事になってしまいますが、エースとジンベエを捕まえるフリをして二人をこのまま逃がしたいんですの」
「…いくら天竜人の頼みであってもそれは難しいんじゃがなァ」
「一生のお願いですの。私、ここであの二人を救えなかったら何のために生まれてきたのかわからなくなってしまいますわ」
未だに私から目を逸らさないエースとジンベエを見ると、エースがこっちに歩み寄ってくるのが見て取れた。
「は、はやく!ガープさん、エースがこっちに来ようとしてますわ。捕まえるフリでもなんでもして逃がしてくださいませ!」
「ぶわっはっはっは!!本当に変な天竜人じゃな やっぱりワシの孫嫁にぴったりじゃ」
ガープさんは至極面白そうに笑ってからこちらに向かって歩いてくるエースの前に立ちはだかった。
「ここから先に行きたければワシを倒してから行け …ただし今なら逃げても見逃してやらんこともない」
「逃げるかよ。おれはエレナに用があるんだ 邪魔するなら容赦しねェぞ」
「エースさんと同じくワシも逃げる気は無い 悪いがそこをどいてもらおう」
対峙する三人を見ながら私はこの隙にいそいそと船に乗る。出航すればこっちのものだ。
「やる分には構わんが一つお前達に忠告じゃ。…ここで騒ぎを起こせば誰が罪に問われるか、わかるな?」
「!!」
「っ!」
「穏便に事を進めたいなら静かにこの場を去れ。それが唯一お前達にできるあの娘への恩返しじゃ」
「てめェジジイ!そこまで知っておきながらなんで!!」
「黙らんかエース 数ある危険を冒してまで救われた命。無駄にする気か?」
「…っ!!」
インペルダウンへわざわざ自分たちを助け、弟のルフィを助けるために二度もインペルダウンに向かい、ルフィの命まで救ってくれたエレナ。
騒ぎを起こせばその責任がエレナに回ることは言うまでもないこの状況で、エースは苦渋の表情を浮かべた。
「あの娘の為にも船を追いかけるのはやめるんじゃ。追いかけてきたその時は本気でお前達を捕まえる 覚悟しておけ」
ぐっと拳を握り締めて下を向くエースに、ガープは背を向けて船へと向かう。その様子を既に船に乗ったエレナが見ているとふとエースと目があったのだ。
まさか目が合うと思わず、びくりとエレナの体が揺れる。ガープが船に乗り、船はシャボンディ諸島を離れた。
すると黙ってエレナを見つめていたエースが突如口をパクパクと動かしはじめた。