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「火拳のエースが何やらこちらに合図を送っていますが」
「な、なんのことでしょう!おほほ、顔面運動ですわよきっと!」
「そうですか…これは失礼いたしました」
海兵の一人が訝しげに私とエースを交互に見ていたがなんとか誤魔化すことができた。それにしても一体なんなんだろう。
そう思ってエースの口元を見つめてみる。
しばらくして、彼が何を言おうとしているのかがすぐに分かって思わず涙が二つの瞳から溢れ出てしまった。
こんなにも距離が離れているのに口パクだけで何が言いたいのかわかるなんて、もしかしてやっぱり私とエース、相性がいいのかもしれないとか馬鹿げたことを考えながらも涙は止まってくれない。口パクで言われた言葉に何度も頷いてみせる。
寂しい。やっぱり寂しいんだ。ジンベエと離れるのも辛い。けれどそれとは違うその寂しさに私は再認識させられた。エースが好きだって。彼に恋してるんだって。
「う…っうぅ!ひっく…!(ここで泣いたらダメ、堪えなきゃっ)」
そう自分に言い聞かせても涙は止まらない。このままでは怪しまれると思っていたその矢先、大きな手が私の頭に乗って、ポスッと私の身体は何かにもたれかかった。
「よく頑張った。強い女じゃな エレナ」
「うぅっ、ガープさん…っ」
初めて名前で呼んでくれた気がする。そう、私は強い女。エースが言ってくれたあの言葉を頼りに私はこれから自分のできる事をする。その為にもやることは山積みだ。
私は涙を手で拭って、濡れた瞳を乾かすように青く澄みわたる空を見上げた。
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シャボンディ諸島に残されたエースとジンベエは水平線の向こうに消えていった船の残像を見ながら口を開いた。
「行ってしまったな エレナは」
「ああ…」
「これからどうするんじゃ、エースさん」
「オヤジ達の所に帰るって選択肢は今のところなしだ」
「…つまり、どういうことじゃ」
「約束したんだよ、あいつと」
「約束?」
不思議そうな顔のジンベエを見てからニッと笑ったエースは先ほどエレナに口パクで伝えた内容を声に出して言った。
「"必ず迎えに行くから待ってろ"ってな」
「ふむ エレナはエースさんがなんと言ったのかわかっとるのか?」
「ああ、わかってるさ。きっと」
船の上で泣きながらコクコクと何度も頷いていたエレナの顔を思い出す。
「あー…もう会いたくなってきた」
「ワシもじゃ。エースさんとは少し意味が違うがな」
ジンベエがそう言うと二人は顔を見合わせて笑った。
そして決心を固めたエースとジンベエの2人は元来た道を逆戻りして行ったのだった。