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「むぐっ…!?ごほっ!ごほ!!」
口の中に広がる何とも言い難い苦さの、とてもじゃないが人間の食べるものではない、そんな味のお菓子に思わず吐き出しそうになる。私は慌てて口を手で押さえた。いやそもそもこれはお菓子なのだろうか。
しかし、まずい…!生まれてこのかた、こんなまずい食べ物は食べたことがない。まずすぎて生理的な涙が視界を揺らす。
「どうしたエレナ!そんなにうまかったか?」
この反応で美味い訳がないだろうがこの天然さんめ!私は涙目でふるふると顔を横に振った。
「まさかマズかったのか?」
エースの問いにコクコクと高速で首を縦に振る。不味すぎてどうにかなってしまいそうだったが、私は鼻をつまんで何とか口に入っているそれを飲み込もうとした。
「そうとも知らず食わせちまってワリィな。マズいなら遠慮せずすぐ出せ!ほら、ここに」
ほら、と言いながらエースが自分の手の平を広げて私に迫ってくる。
いやちょっと待て!!いくら不味くてもですね?好きな人の前で口の中のあられもないものをペッて出来るかよ!
しかも手の平とか!無理に決まってるじゃん!何の冗談だよ。
私はエースの手の平をグイッと押し退けて無理やりゴクンとそれを飲み込んだ。エースの手の平にぐちゃぐちゃになったお菓子(?)を出すよりマシだ。
「あっバカ!出しゃあいいのになんで飲み込むんだよ!」
「ううっ…!そ、そんな事出来るわけないですわよ!エースのバカ!」
「なんでできねェんだよ、ペッてするだけだろ!簡単じゃねェか」
「簡単とか難しいとかの問題じゃないですわ!こ、これはレディとしての品格を問われる問題で…!」
「レディとか品格なんて今はどうでもいいだろ!」
「どうでもよくないですわ!だ、だってわたくしは…」
そう!だってわたくしは!エースが好きだから!!!くぅう〜!その一言が言えない!私の気も知らずよくそんな無神経なことを言えたもんだ。
私はささやかな抵抗のつもりでエースをキッと睨んだ。
しかしエースの顔もちょっと怒っているようだった。
「レディとかそんなんよりおれはエレナが無理やり不味いもん食って嫌な思いする方が嫌だ。それもおれのせいなら尚更だ」
きゅん。
おっと?私の胸が勝手に心音とは別の音を奏でたぞ。
「エースのせいではありませんわ。私ががっついて一口で全部食べようとしたからいけないんですの」
「いや、おれがお前にやるっつったのがいけなかった。ごめんな マズいモン食わせちまって」
「そ、そんな謝らないでくださいまし!結果は不味かったかもしれませんけれど、エースが私にくれたという事がわたくしにとってはとても嬉しかったんですから」
そう、エースが私にとくれたものなら例えその辺の雑草でも嬉しいのだ。それがお菓子ときたら食べない訳がない。つまりあのお菓子が美味しかろうが不味かろうが結果私は食べていたのだ。
ただ今回は運悪くそれが不味かっただけのこと。誰も悪くない。私は大好きなエースにこんな申し訳なさそうな顔をしてほしくないのだ。
「お前がそう言うなら今回はもうしょうがねェけど……わかった!次からはおれが毒味してから渡せばいいのか」
いやそういう問題でもないんだけどな?毒味なんていいから!むしろ私が毒味しますって感じだよ。
「エースったら!毒味だなんてそんな事しなくても大丈夫ですわよ」
「いーやダメだ。もう決めた。これからお前が食べるものは全部おれが最初に味見してからだ!航海となりゃ傷んでる食材もある。お前のいたマリージョアより衛生面でも落ちるしな」
「いえ、ですから」
「安心しろエレナ!お前はおれが絶対守ってやる」
きゅん…。おっと、まただ。
いや〜私まじ何回胸きゅんしとんねん。どんだけ乙女だよ?いやね、お前はおれが絶対守るなんてセリフをエースに言われれば誰だってこうなるんだけどね?
まったくどれだけ私を夢中にさせれば気が済むのやら…。
ていうか今更だけどさ、なんか更にエースの過保護に拍車がかかってる気がするんだけど気のせい?