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「お、そうだ。そういえばお前に渡すモンがあるんだ」
「わたくしに…?」
な、なんだろう。また食べ物かな?さっきの事件のせいで地味にビクビクと身構えているとエースがポケットからピンク色の物体を取り出した。
「これ…さっき店でずっと見てたろ?女の欲しいモンとかわかんねェけど、お前が欲しそうにしてたから買ってみたんだ」
エースが私にと差し出してきた物とは、さっき行ったピン留めやヘアゴムが売っているお店にあったハートの形をしたピン留めだった。
「嬉しい!これ…本当にわたくしにくれるんですの?」
「おう!その為に買ったしな」
まさかエースが私に贈り物なんてするとは思っていなかったから飛び上がるほどに嬉しい。だって好きな人からの贈り物だよ?何だって嬉しいに決まってる。
それに私が欲しそうにしてたからという理由で買ってくれたなんて、こんなこと言われて喜ばない女がいるか?
まぁ実際のところ私が見てたのはこのハートのピン留めではなくリボンの形のピン留めだったんだけどね!エースがくれたっていう理由だけでもう私にはリボンの形のピン留めなんてすっかり眼中になくなってしまった訳だけど。
でもまさか本人に実は私が見てたのはその横のリボンの形をしたピン留めですなんて死んでも言えない。この事実は墓場まで持って行こう。そうしよう。
「とってもとっても嬉しいですわ!わたくしおばあちゃんになってもずーっと死ぬまでこのピン留めをつけ続けますわね」
「そこまで喜んでくれておれも嬉しいけどよ、またお前が欲しくなったらいつでも買ってやるから遠慮なく言えよ?今度はそんな安モンじゃなくちゃんとお前に見合ったの買ってやるから」
「えへへ、エースはお優しいんですのね。惚れ直してしまいますわ」
「べつに言うほど優しく、って…は?」
「は?ってですから…ハッ!!」
ぎゃー!私ってば何てこと口走ってるの!?ほ、惚れ直すとかもうそれほぼ告白みたいなものじゃん!やだやだ、もっと大人でお色気プンプンなレディになってからエースに告白するつもりだったのに…!
このままでは振られてしまう…!きっと「ワリィな、ガキに興味ねェんだ」とか言われてフラれちゃう!…かくなる上は先手を打たなければ!!
「ほ、惚れ直してしまうというのはですね?あの…そう、性格ですわ!性格!エースがとっても面倒見の良いお兄様みたいで惚れ直してしまうという意味なんですの!」
「お、お兄様…?」
「ええそうですわ!あのっ…だから決して!決してわたくしがエースをラブな意味で好きという事ではないので!安心してくださいまし」
「…そ、っか…。そうだよな ハハハ、心配すんなよエレナ!おれ達何歳差だと思ってんだよ そんなの言わなくても分かるって」
「ひぐっ…そ、そうですわよね…っわたくしったら」
なんとか誤魔化そうとしたエレナは無事誤魔化しに成功したものの、エースのその言葉にダメージを受け思わずひぐっ…と女らしくない声を洩らした。
一方全力で好きではないと否定されたエースはというと、エレナよりもかなりダメージを受けているようで乾いた笑みを浮かべながらもなんとかその場を取り繕っていた。
「ありゃ一体何のコントだよい…」
その光景をそこそこ近い場所からビールを片手に見ていたマルコの口から思わずポロっとそんな一言が零れ落ちた。
マルコの記憶ではこの二人は多少歳の差はあれど付き合っていると思っていたのだが、この調子を見るに違うらしい。
あれだけそれらしい言動や行動を見せておいてそれはないだろう。お互いの言葉にどちらもダメージを受けている様子を見てマルコは天然記念物でも見るかのような眼差しで彼らを見つめるのであった。