04
ぺたぺた。まどろむ意識の中、何か粘着質な物が肌に触れているような感触がする。
何度払いのけてもまたぺたぺたと頬に当たるそれにだんだんイライラしてきた私はガバッと体を起こし、ぺたぺたと頬に触れる"何か"を思いっきり払いのけた。
「人が寝ているっていうのにさっきからぺたぺたとなんなんですの!!」
「べへへ〜起きた!この女起きたんねードフィ!」
「フフフフフッ あァ…お姫サマのお目覚めだ」
「…へ、」
眠りから覚めた私の目に飛び込んで来たのは鼻水を垂らした不潔感漂う風貌の男と、サングラスをかけたピンクのモフモフ…。ん?ピンクの、モフモフ?
「ふおっ!?!?」
「べへへっ!聞いたかドフィ ふおっ!?だってよ面白ェ!」
え?いや面白いとかじゃなくて待って。なんでトレーボルとドフラミンゴが私の目の前に…???
ちょっと落ち着こう。うん。確か私はエースとレストランで食事をしていて、いっぱい食べるエースを見てたらどうしてかだんだん眠くなって来て…。眠くなってきて……?
……ハッ!!まさか私ったらそのまま寝ちゃったの!?いやでも仮に寝ちゃったとしてもこの状況は可笑しい。目が覚めたらエースいなくて代わりにドフラミンゴとトレーボルなんて絶対可笑しいだろ何の冗談だよ。
そりゃ漫画読んでた時はドフラミンゴもトレーボルも別に嫌いじゃなかったけどそれは漫画だったからであって現実に目の前にいるとなれば話は別。何か変なことでもしでかせばぴゅっと一瞬で殺されてしまうだろうからね。
嫌だな〜ついに私ここで死ぬのかなぁ。まだこっちの世界では12年しか生きてないのに死ぬのかぁ。こんな事になるならエースにちゃんと好きだって伝えればよかった。気持ちも伝えられずに死ぬなんて私ったら本当…
「フッフッフッ!!いつまでだんまりを決め込むつもりだ お嬢ちゃん」
ドフラミンゴがニタニタと顔に笑みを貼り付けながら近づいて来た。その瞬間エースとの思い出が走馬灯のように脳裏に浮かんでくる。
ーーーーうん、駄目だ。やっぱりまだ死ねない。だって私全然エースとラブラブ出来てないもん!今までのいちゃいちゃなんかじゃ足りない。そもそも私は"いちゃいちゃ"じゃなくてエースと"ラブラブ"したいんだ。
そうと決まれば道は一つ。
「誰がこんな所で死ぬかってんですわよ!」
私はそう吐き捨てると寝かされていたベッドから素早く降りて部屋の出口へと走った。
「…!べへへへっ!んねードフィあいつたった一人でおれ達から逃げる気だぞォ!べへへーどうする?捕まえる?それとも殺す?」
「フフフフフッ殺しはするな ただ捕まえるだけでいい」
「任せろドフィ〜〜ベトランチャー!!」
トレーボルが白い粘液をエレナに向かって飛ばす。ベトッとその粘液がエレナの体にくっ付き、脱走は未然に防げたかと思われた。
だがドフラミンゴとトレーボルの二人は次の瞬間予想していなかった出来事に目を見張った。
エレナの体にくっついたトレーボルのベタベタがスルンッと滑り落ちたのだ。
「え…!?な、なんですのこれ…!?」
「えェ〜〜!?おれの"ベタベタ"が…!一体どういう事だんねードフィ!」
「!天竜人が悪魔の実の能力をねェ…フフフッ面白ェ!!」
ドフラミンゴは指先から出した糸でエレナの動きを封じた。
だが再び予想だにしない出来事がおこった。エレナの両手足に巻きつけた糸がドプンッという水音ともに外れたのだ。
「んねー!?ドフィの"イトイト"でもダメとは一体何の能力者だ〜!?」
「"自然系"の能力…水か!?沼か!?どちらにせよ逃しはしねェ」
「ひぃ…っ!追いかけて来ないで下さいましー!!」
武装色の覇気を纏ったドフラミンゴがエレナの腕を掴む。いくら"自然系"とは言え武装色の覇気で掴まれてしまえば生身の人間と同じように触れる事ができる。
もう終わりだ。このまま殺されてしまう。そう思ってギュッと目を瞑っていたエレナだったが、突如ドフラミンゴの拘束の手が緩んだ。一体何が起こっているのかと不思議に思い恐る恐る目を開けたエレナの瞳に恐ろしいほど悪い顔をしたドフラミンゴが映った。
「この力が抜ける感覚には身に覚えがある…悪魔の実の能力者なら誰しもが弱点のハズの"海"だ」
「海…?あ、だから"海の秘宝"…ってハッ!!ち、違いますわ!何でもっ」
「まさか天竜人が"海の秘宝"を食っちまうとはなァ…全く面白ェ世の中だよ…!!」
嬉々としてそう話すドフラミンゴの側にトレーボルがやってくる。
「んねーんねードフィ!そのガキ掴んでて力は抜けねェのか?」
「フフフフフッ!多少力は抜けるが能力者に成り立てのガキを拘束するのに支障はねェ」
そう言ってドフラミンゴに再び腕を拘束される。身動きが取れなくなったエレナは海に出て初めて直面する絶体絶命のピンチに顔を真っ青に染めるのだった。