010
ザザーーン…
「来ねェなァ…朝なのに……」
「寝坊でもしてんじゃねェのか?」
「…ハァ」
「ん?なんか言ったかウィル」
「……(待ち伏せにもならない)」
「あのさ、気のせいかしら。北のほうでオーッて声が聞こえるの……」
朝。待てど暮らせど現れないクロネコ海賊団に痺れを切らしたルフィとゾロが口を開く。ウィルは北のほうに感じる大勢の人の気配にその方角を一瞥した。
いち早く異変に気付いたナミの言葉にウィル以外の全員が耳を澄ます。
「うん、やっぱり聞こえるわ!」
「おいどうした!?」
「き…北にも上陸地点がある…!!まさか…」
「海岸間違えたのか!?もしかして!!」
「だってよ、あいつらこの海岸で密会してたからてっきり!!」
「…全ての可能性を考慮するのも策の一つだ。その辺がお前は甘い。てっきり、で村を救えなかったりしたらどうする?」
「うっ…!!」
「今、こんな話をしても意味はない。北と分かればお前たちのすることは一つ」
「そうだ!急ごう!!村に入っちまうぞ!!どこだそれ!!」
「ここからまっすぐ北へ向かって走れば3分でつく。地形はこことほぼ変わらねェから坂道でくい止められりゃいいんだが!!」
「20秒でそこ行くぞ!!!ウィル、行ってくる!!」
「ああ」
「ちっきしょおせっかくの油作戦が台なしだ!!」
「お前もルフィの後に続いて。嘆いてる暇はない」
「おっおう!!わかった!」
北と分かった瞬間に走り出したルフィに続いてウソップも走り出す。その更に後に続いてナミとゾロが走り出そうとした時。
「きゃああ」
「おいナミ!!何やってんだ」
「助けて落ちるっ!!」
ぐいっ!!
べちゃっ!!
「は!?うわあああっ!!手ェ離せバカ!!」
「あ、ごめん。……!!しめたっ!ありがとゾロ!!」
「うわーーーーーっ」
「…………はぁ」
「あ…わるいっ!宝が危ないの!!ウィルにでも助けてもらってなんとかはい上がって!!」
油に足を取られたナミが咄嗟に近くにいたゾロの服をつかんで道連れにする。それをいいことにナミは迷う事なくゾロを踏み台に上へと駆け上がった。
油まみれの地面に必然的にゾロがツルツルと滑りながら下の方まで落ちていくのを見てウィルが呆れて思わず溜め息をつく。
「………!!あの女殺す!!」
ギッ!!と走り去るナミの背中を睨むゾロの元へウィルが音もなく現れた。
「手が掛かるのはどうやらルフィだけじゃないみたいだね…」
「…っ!?お前どうして!!」
「質問してる暇はないだろう?…飛ばすよ」
「は?!…ってうおっ!!!」
ゴォオオ!!と凄まじい勢いの何かが背中を押す感覚に驚きながら、ゾロは一瞬にして油まみれの坂を抜けた事にウィルの顔を凝視した。
「行け。おれも後から行くから」
「……!!ああ、サンキュ、ウィル!」
聞きたい事があっただろうが優先順位を考え、ゾロは一言礼を言ってから坂道をまっすぐ走って行く。
「さて、と…あっちの方かな」
ゾロが走って行くのを見届けたウィルが一人そう呟いた後にはもう、そこに彼はいなかった。