011
 
「そこか」

「…!?太陽と月を追う狼スコルハティが私に何か用でも…?」

「少しね」

「貴方程の人が名もない海賊に肩入れしているなんて”偉大なる航路”の猛者たちが聞きつければどう反応するか…」

「おれは周りの目なんてくだらない物に興味はない。それと…おれは手加減というものがどうにも苦手でね。ーーどういう意味か理解できるな?」

「!…っ!!?」

「幸いまだお嬢様は無事みたいだね」

「…っ!!君はお嬢様の安全を確かめに…?」

「………」

クロの疑問に答えるでもなく、ウィルは目の前で驚く彼の顔を見ながら瞬く間にその場から消えた。そう、まるでそこには最初から何もなかったかのように。

ーーーーーーーーーーー


カヤの屋敷から北の海岸へ姿を現したウィルは人目のつかない草陰の辺りからニャーバン兄弟を一人で相手にするゾロを見つめた。

「…(流石に分が悪い…)」

「やばい!ゾロが押されてる」

「二人相手に攻撃を受けっぱなしじゃらちがあかねェよ。援護する。くらえ”鉛星”っ!!」

バシュッ!!

「……」

ウソップがゾロの援護に、と放った”鉛星”がニャーバン兄弟達に向かって飛んでいく様を見ながらウィルが難しい顔をする。さあ、どうでるかと静かに傍観していると、瞬時にそれに気づいたゾロが自ら”鉛星”を左肩に受けた。


「……!!」

あの一瞬の間での冷静な状況判断にウィルが目を見張る。不利な状況下で戦いながら仲間の身の安全を考え、自ら盾になる。その判断に純粋に驚いていた。

「味方に攻撃してどうすんのよ!!!」

「い…いや違う……!!あいつ…今自分から当たりにいった様な…!!」

「自分から……!?」

「バカ野郎ウソップ!!死にてえェのか!!!」

ゾロが一瞬できた隙を見計らってそう叫ぶ様子にナミは考えられる可能性を口にする。

「もしかしてこっちが助けられたんじゃないの………?」

「え!?」

「だってパチンコなんて撃ち込んだらたぶんあの二人組、標的を私達に変えて襲ってくるわ」


「…その通りだ」

「!ウィル…!?あんたいつから…」

「うおっ!!」

「今来た。それより…ウソップ、お前はもう少し周りを見て状況判断をしろ。周りが見えていなければ援護もただの足枷にしかならない」

ニャーバン兄弟と戦うゾロを傍観していたウィルがそう言ってウソップに視線をやると彼はぐっと拳を握った。


「…ワリィ…ついなんか出来ることはねェかって焦っちまった…!」

「そうか…なら今回の経験を次に活かせばいい。…仲間を助けようとするお前の姿勢には好感が持てる」

「…!!あ、ああ!この勇敢なる海の戦士、キャプテン・ウソップ!次はしくじらねェ!」

ウィルの思いもよらぬ言葉にウソップは驚きと、なんとも言えない嬉しさに勢いよく顔を上げ、立ち上がるといつもの調子でそう言った。立ち直った様子を見てウィルはその場で僅かに微笑んだ。同性でも見惚れてしまうようなその僅かな微笑みにナミとウソップが揃って顔を染めたのは言うまでもない。

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