012
 
「しかしお前は、本当にどこまでも馬鹿正直だね」

ナミとウソップのそばから離れてクロの海賊船であろう船首の下敷きになりながら気持ちよさそうに眠るルフィを見てウィルは苦笑した。催眠術にかかって素直に寝てしまう弟のあまりにも正直な性格に、仕方ない…と一言漏らして船首に手を当てる。

それは一瞬の出来事だった。触れていた部分の船首が瞬く暇もなく、消し炭になっていたのだ。下敷きになっていたルフィの上にパラパラと黒い炭が散るのを見て、ウィルがそれを払う。

「あ、ありえねえ!!あの野郎、一瞬で俺たちの船首を…」

「どこの誰だか知らねェが舐めたマネすんじゃねぇぞ!!!」

ダダダダッと刀を振りながら走って来る海賊を冷ややかな目で一瞥する。一方、タイミングが良いのか悪いのかジャンゴがその様子を見ており、彼は瞬時に顔を青く染めて狼狽えた。

「バッ、バカヤロウ!!わざわざ48億のバケモン相手に死にてェのか!!?」

そんな焦りに焦るジャンゴの制止など聞こえるはずもなく、海賊はウィルに向かって行く。ーーだがその海賊は突然、なんの前触れもなくその場に倒れたのだ。それも白目を剥いて。

一体何が、と騒ぎに気づいた全員がその様子を見て水を打ったかのように静まり返る。ウィルは倒れた海賊を見て溜息をつくと形の良い唇を少しばかり歪めて言った。

「やっぱり手加減って難しいね」

「…っ化け物が!!」

「あ、ああ!!…うわぁああ!!!」

「…とんでもなく強ェ奴が仲間になったもんだ」

明らかに次元の違うその強さにクロネコ海賊団の怯えが目に見えて伝わってくる。ゾロは戦っていたニャーバン兄弟達がウィルに気圧されて震えているその様子に、他ならぬ自分の背にも言い知れぬ冷や汗が伝うのを感じて自嘲気味に笑い、そう吐き捨てる。すると不意にウィルに名前を呼ばれた。

「ゾロ。足元を見ろ」

「足元?ーーー!!ワリィなウィル、恩に着る!!!」

言われた通り、足元を見るとそこには二本の愛刀が置いてあったのだ。十中八九ウィルが手を回したであろうそれにゾロが礼を言う。

刀を拾い上げたゾロがそれを構えた時、ジャンゴはある一点を見つめて震え出した。

「……あ…!!…あ…いや!!これは…その事情があってよ…!!!」

「キ…キャ…キャプテン…クロ…!!」

「…こ…殺される…」

彼らの視線の先には額に青筋を浮かべているクラハードル…キャプテン・クロの姿があったのだ。

「もうとうに夜は明けきってるのになかなか計画が進まねェと思ったら…何だこのザマはァ!!!!」

ジャンゴをはじめ、ガタガタと震えるクロネコ海賊団をよそにウィルは狂った計画に怒り、声を荒げるクロを涼しい顔をして見つめていた。

back|next
back
13/71