016
 
「それほど深い傷ではないな」

カヤの屋敷に着いて中に入るとすぐ血溜まりの中に倒れる人間を見つけた。十中八九この羊の様な髪型をした男がクロにやられたのだろうと見て、ウィルは包帯や消毒液、濡れたタオルを持って来てメリーの傍にしゃがみ込んだ。

「怪我人の手当ては得意じゃないんだけどね…」

「…う…っ、…君、は…ゴホッゴホ!!」

「…簡単な手当てしかできないから後でちゃんとした医者に診てもらって」

「…!!お嬢様はっ…!?う゛っ!」

「ああ、カヤだっけ。あの子ならさっきすれ違ったよ」

「…っ助けてください!お嬢様をどうかっ…!!」

「それなら心配ない。少なからずルフィがついていれば殺される様なことはない。それより今は自分の怪我を治すのに専念して」

「…はァ…っ…君は…?」

「おれは…そうだな、海賊だよ」

「海賊?……っ!!まさか、あなたは…」

軽く消毒して、包帯でグルグルとメリーの傷口を巻きながら慣れない手つきで治療をするウィルの手、もっと言うと手の甲を見たメリーが目を見開いてウィルの顔と手の甲を見比べる。

「これで終わり。じゃあおれはもう行くよ」

メリーが何かを言う前に小さな声でお大事に、と言ってウィルはその場から姿を消した。

ウィルがさっきまでいた場所をボーッと眺めていたメリーは、嵐の様に去って行った恐ろしい程顔の整った男に夢でも見ていたのかと自分の頬を抓った。




「あれで殺したつもりか…ツメが甘いな」

ウィルはメリーの傷の深さを思い出しながらクロのツメの甘さに内心ため息をついた。

正直言うとメリーは自分には関係のない人物である故、どうなろうがさほど気にも留めない。だが少なからずルフィ達に関わってくる人物であるから助けた。彼を助けた理由はただそれだけだった。


彼が”冷酷無慈悲”と呼ばれる理由が実はそこにあったりする。基本身内や知人、自分と親しい人間以外に興味を示さないウィルはその他の人間がどうなろうとあまり気に留めない。分かりやすく言えば完全なる”無関心”なのだ。

「ルフィならまた違う世界を見せてくれるかもしれないから、か」

そう、ルフィなら。ルフィなら、酷く冷めた自分の考えとはまた違った新しい世界を見せてくれるのではないか。そんな思いを抱きながらウィルは北の海岸へと歩みを進めた。

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