017
「みろ。貴様のおかげで中途半端に死にきれねェかわいい部下どもが苦しんでる」
「畜生ォ…」
「もうやめてくれ」
「痛ェよォ!!!」
ウィルがメリーの手当をしていた同時刻、ルフィは敵味方無差別に攻撃するクロをただ見つめていた。
「何か言いたげだな」
「うん。お前みたいな海賊には絶対におれはならねェ」
「ならないんじゃねェ。なれねェんだてめェごときにはな…!!もっとも”太陽と月を追う狼”ーーあの化け物がいない今、てめェを殺す事になんの障害もないというわけだ…」
唯一障害となるウィルの存在はクロにとって邪魔以外の何者でもなかった。それがどういう訳かいなくなった今、このチャンスを逃すものかとクロは再び”杓死”を構えようとする。その時、ルフィが静かに口を開いた。
「お前何か勘違いしてるだろ」
「勘違いだと?」
「ああ。ウィルは化け物なんかじゃねェよ」
「何を言うのかと思えば。アレが化け物じゃないだと?」
「ウィルはおれの兄ちゃんだ。お前みたいなわる執事に”化け物”なんて言わせねェ!」
再びクロが”杓死”を使おうとする前にルフィは手足をクロの身体に巻きつけて動きを封じる。
ガシィッ!!
「くそっ!!離れろ貴様っ!!!」
「これでお前の3年の計画も完全に失敗だ」
「何だと!?」
「あいつ…C・クロをとらえた」
「もしかしてあいつが勝てばおれたち殺されずに済むんじゃねェのか……?」
「や…やっちまえゴム人間ーっ!!!」
「C・クロをブッ潰してくれェ!!!」
手のひらを返して自分を応援するクロネコ海賊団を一瞬見るとルフィはクロに頭突きをかまし、ぐぐぐ…とゴムゴムの実の能力で首を思い切り伸ばし、後ろに持って行く。
「お前らに応援される筋合いはねェ!!!お前らだって潰してやるから覚悟しろ!!ーーゴムゴムの…」
「ま…まさか。おれの計画は…おれの計画は絶対に狂わないっ!!!」
「鐘っ!!!!」
ガゴォン!!!
頭と頭が思い切りぶつかる音とともに、クロが血を吐きながら倒れこむ。掛けていた眼鏡がカランと音を立てて地面に落ちた。
「……や!!やりやがったC・クロを…!!」
「海軍の一船でも敵わなかったあの”百計のクロ”を…!!本当に……!!潰しやがった!!!」
「あの男といい…!!てめェは一体…何なんだ!!!?」
「モンキー・D・ルフィ!!!名前を捨てて海から逃げるような海賊におれが負けるか!!海賊が名前を捨てる時は死ぬ時だけで充分だ!!」
「ル…ルフィ…?やっぱり聞かねェ名だ…」
「太陽と月を追う狼ならともかく…」
「おれの名前を一生憶えてろ。ーーおれは海賊王になる男だ!!!!」
にっと不敵に笑ってそう言ったルフィは倒れているクロを仲間の方へ投げた。そして怯えた様に逃げて行くクロネコ海賊団を見届けるとフラッと前かがみに倒れる。だが倒れそうになったルフィをナミと一緒に現れたウィルが抱き留めた。
「お疲れ、ルフィ」
「本当にもう…なんていうか、羨ましい奴ね!でもおつかれ様」
「…羨ましいって、なんで?」
「そりゃーーってアンタに言えるかァ!」
ウィルに抱き留められてるルフィが羨ましいなんて事は到底言えるわけがなくナミは不思議そうな顔をするウィルからプイッと顔を背ける。そしてそんなナミを見てウィルは何なんだと首をかしげた。