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「ふーっとれた!」
「バカだな。のどを鍛えねェから魚の骨なんかひっかかるんだ」
「あんたらに言っとくけどね、フツー魚を食べたらこういう形跡が残るもんなのよ。ウィルを見習いなさい」
ルフィの”腹減った”という一言で村のレストランに入った四人。ウィルとナミの皿には通常通り魚を食べた後に残る骨が綺麗に残されている。だがルフィとゾロの皿には残るはずの骨が残っていなかった。
喉を鍛えるとは一体…。とウィルが疑問に思ったのも無理はない。
「ここにいらしたんですね」
「ようお嬢様っ」
「寝てなくて平気なの?」
「ええ。ここ1年の私の病気は両親を失った精神的な気落ちが原因だったので……ウソップさんにもずいぶん励まされたし…甘えてばかりいられません」
ルフィ達を探していたカヤは四人のいるテーブルに近づくと軽く話してからゆっくりとウィルに目を向けた。
「あなたがメリーの言ってた…。傷の手当ての件はありがとうございます」
「?……屋敷の怪我人のことか」
「はい。他にもどうやら私の知らないところで色々手を回して下さったみたいで」
「それならこいつらの方がよっぽど動いてくれてたよ」
「そんなことねェよ。少なくともおれはお前が刀を渡してくれなかったらヤバかったぜ」
「そうよ。私だってウィルがいなかったらチャクラムで真っ二つになるとこだったわ」
「おれもウィルがいてくれたから頑張れたぞ!」
ゾロを初めルフィとナミがウィルにそう言う様子を見てカヤがクスクスと笑った。
「好かれてるんですね。でもなんだかわかる気がします」
「好かれてる、か。それなら素直に嬉しいかもな」
ルフィ達を見ながらそう言ったウィルにナミが息を呑んだ。
「本当にもう…それで狙ってないのが余計厄介だわ」
「天然タラシってか。確かにタチが悪ィ」
「なんだ?ウィルはタラシなんて名前じゃねェぞ?」
「あんたは黙ってなさい」
「普通に言ったんだけど…。まぁいい。で、何か用があって来たんじゃないのか?」
サラリと話題を変えたウィルにカヤはコクリと頷いてルフィ達を見た。
「そうなんです。みなさん船、必要なんですよね!」
「くれるのか!?船っ!!」
「ふうっ入った!!……この家ともお別れだ……!!ーーしかしいいよなァあいつら。仲間にあんな強ェヤツがいたら向かう所敵なしじゃねェか」
家に帰ったウソップは船出の為、荷物を全てリュックにまとめてからベッドに大の字で寝転んだ。そして先ほど別れたばかりの三人と、常人離れした容姿と強さを持つウィルを思い浮かべた。
「厳しいこと言いながらなんだかんだ裏で色々してくれてたもんな…」
冷たく突き放したかと思えば裏でカヤの無事を確認していたり、ある時はクロに殴り掛かろうとした自分を止めてくれた。
思い出しながらウソップはブンブンと頭を振ってパチンッと自分の頬を叩く。
「これからあいつらと同じ海賊やるってのに何考えてんだ!よし、気を取り直して出発だ!」
そしてこの後リュックがデカすぎて扉に引っかかり、無理やり出ようとした拍子に家の扉が壊れ、その勢いでゴロゴロと雪だるまの様に森の中を転がる羽目になったウソップは再び散乱した荷物をリュックに詰めてから海岸に向かった。