023
「ん…」
近づいてくる人の気配に目を覚ました。どれくらいの時間眠っていたのだろうと考えていると扉が開き、見慣れた人物達が顔を覗かせる。
「起きてたのか」
「なーんだ、つまんないの!」
「何がだ?」
「……今起きたよ。お前達はどうしたんだ?」
ゾロを先頭にその後ろから入ってきたナミは少し不服そうに唇を尖らせた。ウィルの寝顔が見て見たかったというナミの心境を知るはずもなく、ウソップが不思議そうな顔をする。
「そのことだけど、説明するより見た方が早いわね。ご飯食べに行くわよウィル!!」
「は?」
「ま、そういうことだ」
「…」
そういえば近くにルフィの気配がない。自分を起こしに来た三人は何か事情を知っているだろうと確信したウィルはゾロ、ナミ、ウソップと共に海上レストランに向かった。
所変わって海上レストラン、バラティエの裏口。
「おれはワンピースを目指してる。”偉大なる航路”へ入るんだ!!」
「!………コックを探してるくらいだからあんまり人数揃っちゃいねェんだろ…?」
「今こいつで6人目だ!」
「何でおれが入んだよ!!」
そう言ってルフィが指差したのはウィルより色が強い金色の髪を持つ男だった。海上レストランのコックであるサンジは勝手に仲間の数に加えるのに抗議するがルフィは聞いていないようで。
「あんた悪い奴じゃなさそうだから忠告しとくが…”偉大なる航路”だけはやめときな」
ギンと名乗った男が神妙な顔つきでそう言うのにルフィは黙ってそれを聞く。
「あんたまだ若いんだ。生き急ぐことはねェ。”偉大なる航路”なんて世界の海のほんの一部に過ぎねェんだし海賊やりたきゃ海はいくらでも広がってる」
「へーそうか…なんか”偉大なる航路”について知ってんのか?」
「……いや何も知らねェ………何もわからねェ。だからこそ恐いんだ……!!あの化け物みてェな男”二人”!!!」
「二人…?」
「ああ…恐ろしい程に綺麗な顔をした”嵐を呼ぶ男”と十字の刀を背負った男…!!」
「綺麗な顔かー。おれの仲間にもすんげェ綺麗な奴がいるんだ!」
「な、なにィ!?綺麗なレディが!?」
「いんや、ウィルは男だぞ」
「あァ!?野郎かよクソ紛らわしい!綺麗って言葉はレディの為にあるもんだ。わかるか?」
「へーそうなのか。あ、ウィルは船にいるから出航する時にお前も見れるぞ」
「だから行かねェっつってんだろうが!!テメェは人の話を聞け!!!」
ルフィとサンジが言い合いをしている最中も、ギンは頭を抱えながらガタガタと震えていた。ーーわけもわからないまま次々に艦隊が沈められて行くあの身の毛もよだつ絶望的な光景。そして突然、なんの前触れもなく現れた嵐。トラウマを植え付けるには十分すぎたその出来事を思い出してギンは暫く震えたままだった。