026
「ああ海よ今日という日の出逢いをありがとう。ああ恋よこの苦しみにたえきれぬ僕を笑うがいい。僕は君となら海賊にでも悪魔にでも成り下がれる覚悟が今できた。しかしなんという悲劇が!!僕らにはあまりに大きな障害が!!」
クルクルと踊りながら突然現れたサンジは目をハートにしてナミを見つめる。また個性の濃い奴が現れたとウィルがサンジを目で追う。その間、ルフィは頭上にはてなマークを浮かべながらも手を休めることなくウィルからもらった肉を食べていた。
「障害ってのァおれのことだろうサンジ」
「うっクソジジイ!!」
「いい機会だ。海賊になっちまえ。お前はもうこの店には要らねェよ」
「…(サンジ?どこかで…)」
険悪な雰囲気の中、ウィルはどこか聞き覚えのある名前に黙って何かを考えながらサンジを見つめる。
「おいクソジジイ。おれはここの副料理長だぞ。おれが要らねェとはどういうこった!!」
「客とはすぐ面倒起こす。女とみりゃすぐに鼻の穴ふくらましやがる。ろくな料理も作れやしねェしてめェはこの店にとってお荷物なんだとそう言ったんだ」
ゼフの突き放すようなセリフを聞きながらウィルが小さい声でルフィを呼ぶ。
「ルフィ」
「ん?なんだ?」
「あの副料理長とは知り合いか?」
「いや。だけどあいついいやつだから仲間にするぞ、おれは!」
「そうか、ルフィ。お前が決めたならおれは何も言わない。けど訳ありみたいだね。分かっているとは思うが仲間にするにもちゃんと説得してからだ」
「おう!あ、ウィル!肉ありがとな、腹減ってたんだ」
にししと笑いながらありがとうと言ったルフィの頭をポンポンと撫でる。つい甘やかしてしまうのは自分の悪い癖だ。エースやサボにルフィを甘やかしすぎだと言われたのも一度や二度ではない。徐々に直していかなければいけないのだろう。
サンジとゼフに視線を向けるとちょうどサンジがゼフに背負い投げされている最中だった。
「料理長の胸ぐらをつかむとは何事だボケナス!!!」
ガシャアン!!
「うわ!!………っキショオ」
テーブルを巻き添えに派手に転がるサンジを見てゼフが鼻で嗤う。
「フン」
「てめェがおれを追い出そうとしてもな!!!おれはこの店でずっとコックを続けるぞ!!!てめェが死ぬまでな!!!」
「おれは死なん。あと100年生きる」
「口の減らねェジジイだぜ………!!」
去って行くゼフの後ろ姿を見ながら悪態を吐くサンジにルフィが能天気に声を掛けた。
「あーよかった。許しが出たな。これで海賊に」
「なるか!!」
もう少し空気を読めないのか、ルフィの勧誘にウィルは心の中でサンジを少し不憫に思う。そんな中、ウィルは再び引っかかりのあるサンジの名前に眉を顰めた。