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ルフィが雑用を初めて2日後ーー事件は突然起きる
「おいっ!!やべェぞ!!!逃げたほうがよくねェか!!?」
「アニキ〜船を出してくれ おれ達ァ死にたくねェよ!!!」
バラティエの近くに停めているメリー号に乗っていたウソップやジョニー、ヨサクが怯えた様子で近づいてくる巨大ガレオン船を見てそう言う。
「何だ、騒々しい」
「おう、ウィルか」
「で、何事だ?ゾロ」
「あー敵襲?」
「あやふやだな」
「ウィルの兄貴、やっちまって下さいよ!」
「そうだ、おれ達にゃウィルの兄貴という最強無敵の男がいたぜ相棒!」
「おうよ、クリーク海賊団なんてウィルの兄貴にかかれば一捻りだな」
やっちまえー!とさっきの怯えはどこえやら、ジョニーとヨサクがウィルを持て囃す。
出会いは2日前。ゾロやナミ達と一緒にいるウィルの姿を見たジョニーとヨサクの二人が驚きで飛び退いたのが初対面。そこからはゾロ達同様にウィルの兄貴、と慕われる始末。
「た、確かに!こっちにはウィルがいたな!ひとまず安心だぜ」
ほぅ…と安心して肩の荷を下ろしたウソップと、クリーク海賊団がのんぼもんだ!と強気なジョニーとヨサクにウィルが口を開く。
「何か期待してるとこ悪いけど、おれは手助けはしないよ」
「え、えええェェエエ!!?なんでっすかウィルの兄貴ィ!」
「もしルフィの兄貴やゾロの兄貴がやられちまったらどうするんすか!」
「やられたらか…。そうだな。その時はお前達に代わっておれが生まれてきた事を後悔するような最期を迎えさせてあげるよ」
メリー号に一瞬冷ややかな空気が流れた。綺麗な顔で物騒な事を言うウィルにゾッとジョニーとヨサクが顔を青くする。
「おーおーうちの副船長は怖ェな。頼もしい限りだ」
「はァ…。一つ勘違いしてると思うからこの場で言うが、何も面倒だとかそういう訳で手助けをしない訳じゃない」
「え?」
「ウィルったら前もそう言ってたわよね」
「ああ。おれがお前達の代わりに敵を殲滅するのは構わない。だがな、それじゃ意味がない」
言葉を切ってゾロ達の顔を一人一人見ると続きの言葉を口にする。
「おれが倒してちゃお前達の成長にならないだろう?」
「ーーつまりウィルが手助けをしねェ理由はおれ達を鍛える為ってワケだ」
「な、なるほどそういう海より深い理由があったからなんすね!!」
「そうか!すげェ仲間思いっすね、兄貴!」
「これが”仲間思い”に含まれるのかどうかは知らないけどね」
「この勇敢なる海の戦士、キャプテン・ウソップは知っていたけどな!」
「にしてもそういう理由ね。言ってくれればいいのに、照れ屋なんだから!」
ギュッ!と腕に抱きついてくるナミにウィルが少し後退する。
「でもピンチの時いつも現れて助けてくれるよな!」
「そうよね、私もウィルに助けられた事あるわ」
「そこまでおれも鬼じゃないから」
「なるほどね。どうりであいつが懐くわけだ」
ルフィの事を言っているのだろうゾロが笑うとそれはどうかな、とウィルが薄く微笑み返す。そんなやり取りを見ていたウィルとゾロ以外の四人は珍しく、というか殆ど見る事がない微笑みにボーッとその光景から目を離せずにいた。