002
「すまない、水をもらえるか?」
「え?あっは、はい!お水ですね!!」
黒いフードから覗くサファイアブルーの瞳、プラチナブロンドに輝く髪、白く透き通った肌に手の甲の異様なタトゥー。極め付けに恐ろしく整った容姿。彼、ウィルはテーブルに置かれた水を飲みため息をついた。
「…」
何故自分が”偉大なる航路”から外れた村にいるのか。特に理由はなかった。強いて言えば海を小舟で彷徨って流れ着いたから、というのが一番の理由で。”偉大なる航路”を逆走するなんて前代未聞な事でも自然の摂理の如く成してしまう。彼にはその”能力”があるのだ。そういえば忘れていたがドレスローザに野暮用がある為また新世界に入らなくては。そう考えている時だった。
「あ、あの!!」
「…なに?」
「あの!貴方この手配書の太陽と月を追う狼、ですよね!?私大ファンでーー」
ガタガタ!!
ガッシャン!!
パリーン!!!
「……失礼する」
「あ……」
太陽と月を追う狼、という名を聞いた店の客が皿を落とし、ある客は椅子から転げ落ち、またある客は恐怖に顔を歪める。そんな中、特に気に止めた様子もなくウィルはお金だけテーブルに置くと店を出て行った。
「オイ、太陽と月を追う狼ってあの!」
「なんであの男がこんな所に…!?」
ウィルが店を出てから、店の中ではガヤガヤと彼の話しで持ちきりだった。ーーそして運命の悪戯か、その店に麦わら帽子をかぶった少年とその仲間達がいた。
「あ、ありえない!!なんであんな大物がここに!?」
「なんだ?ナミ知ってるのか?」
「知ってるも何も、あの人億越えのバケモノよ!!まさか太陽と月を追う狼がこんなところにいるなんて…」
「お、お億越えって…!本気でこの村ヤバイんじゃねェか!?」
「億超えか。そりゃ腕の試しがいがあるな」
「なんだ?すこる?そいつの名前そんな変なのか?」
「ううん、名前は確かーーあ、お姉さんさっきの人の手配書持ってるわよね、見せてくれる?」
「はい、どうぞ」
「名前はーーアルテナ・ウィル。48億8千万ベリーの賞金首よ」
「んごっ!?ぶっ!!」
「ちょっと!人が説明してるのにーー」
手配書を見せながら説明するナミの言葉にルフィが未だかつてないほどに目を見開いて喉に食べ物を詰まらせる。それを何とか飲み込んだ瞬間、ルフィがガシッとナミの両肩を掴んだ。
「オイ!!!今ウィルって言ったよな!?」
「言ったけど、それがどうしたのよ」
「そいつ、おれの仲間なんだ!!!」
ルフィの一言に店が一瞬沈黙に包まれた後、店員から客全ての人の絶叫が辺り一帯に響いた。