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クリークが食料を持って一度船に戻った。ルフィはウィル達のいるテーブルまで来るとパサッとウィルのフードを取る。一体なんだ、とウィルが珍しく驚いた顔をルフィに見せた。

「ルフィ?」

「ウィルはフード被ってない方がいい。それ被ってるとウィルの顔が見えねェ」

「いや、あまり騒ぎを起こしたくないから被ってるわけでーーまぁいいよ、久しぶりに会えた弟のわがままと思って聞いてやる」

その言葉にルフィが笑顔を浮かべる。

「それにしてもウィルってルフィにめちゃくちゃ甘くねェか?」

「そりゃ弟だからだろ。ルフィもルフィでウィルにべったりだけどな」

そんな呑気な会話が繰り広げられていたのも束の間、バラティエ船内にギンの焦る声が響く。

「な…何やってんだあんた達。首領ドンの力はさっきみたハズだろう!?逃げた方がいいぜ!!」

「おいギン…お前に言っとくが腹を空かせた奴にメシを食わせるまで・・はコックとしてのおれの正義」

一旦言葉を切り、タバコの煙を吐くと再び口を開いた。

「だけどな、こっから先の相手は腹いっぱいの略奪者。これからおれがてめェの仲間をブチ殺そうとも文句は言わせねェ。この店を乗っ取ろうってんならたとえてめェでも容赦なくおれは殺す。いいな」

「ケッてめェで生かしといて殺すんじゃ世話ねェなサンジ」

「うるせェくそコック」

テーブルに腰を掛けながら言うサンジをウィルは静かに見つめた。腹を空かせた奴にメシを食わせるまでがサンジのコックとしての”正義”。だから相手が海賊だろうとどんなに凶暴な人間だろうと腹を空かせていればメシを食わせる。それが自分に仇なす者であろうと。おれには分からないな、とウィルはサンジから目を逸らした。

「な!なんかあいついいだろ?ウィルもいいと思うよな!」

「いいんじゃない?」

「どうでもいいよあんな奴!それより早く逃げねェと…」

「落ちつけ。相手はボロボロのケガ人だぜ」

「そう。それにおれはあいつと戦わなきゃいけねェ。本当にすげェ奴だとしたらいずれぶつかるんだ!」

「本当にすごい奴ならたった七日で壊滅なんてしないけどね」

小さくそう呟いたウィルの言葉はルフィやウソップの耳には届かない。隣にいたゾロだけがそんなウィルの言葉を聞いていた。

「そういえばギン」

「え…」

「お前”偉大なる航路”のこと何もわからねェって言ってたよな。行って来たのにか?」

ルフィが思い浮かんだ疑問をそのままぶつけるとギンは蹲ったまま頭を抱えた。あの恐ろしく並外れた強さの男二人が脳裏に焼き付いて離れなかった。

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