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「……!!わからねェのは事実さ。信じきれねェんだ…”偉大なる航路”に入って七日目のあの海での出来事が現実なのか…夢なのか。まだ頭の中で整理がつかねェでいるんだ…突然現れた…たった二人の男に50隻の艦隊が壊滅させられたなんて…!!!」
「え!!?」
「ばかな!!!」
「たった二人に”海賊艦隊”が潰されただと!!?」
「……」
この男はしっかりとトラウマとして植えつけられているのか。普通の人間ならギンの様な反応をする。だがクリークは違った。あれは本物の馬鹿かただの命知らずなのだろう。頭の中でそんな事を考えていた。
「わけもわからねェままに艦隊の船が次々と沈められていって…あの時突然来た嵐ですら、おれ達を”わざと”手負いのままあの海を彷徨わせるために…!!!」
ブルブルと震えるギンは雑作もなく嵐を呼び寄せた美麗な男に恐怖を抱いていた。あの宝石を散りばめたかの様に澄んだサファイアブルーの瞳を気だるげにこちらに向けて、その後息つく暇もなく嵐が訪れた。
「仲間の船が何隻残ってるかもわからねェ。ただ恐ろしくてあれを現実だと受け止めたくねェんだ…!!!あの男の人をにらみ殺すかと思う程の鷹のようにするどい目…そして一瞬で嵐を呼び寄せた、背筋が凍る程綺麗な顔をした男を思い出したくねェんだ!!!!」
「そ…そのたった二人の男に…クリークの大艦隊は潰されたのか………!!!」
そのたった二人の男のうちの一人がここにいるということにその場にいる者はまだ気づかない。
「…そりゃあ…”鷹の目の男”そして”太陽と月を追う狼”に違いねェな…」
「た…”鷹の目の男”…!!!」
「す、す…”太陽と月を追う狼”!!?」
ルフィ、ゾロ、ウソップの首がグリンッと勢いよくウィルの方に向く。言わずもがな”太陽と月を追う狼”とはウィルの二つ名であるからだ。ウィルはそんな三人の視線から逃れるかの様に顔を背けた。
「お前が確かにその男の目を”鷹”のように感じたかどうかは証拠にはならねェがそんな事をしでかす事そのものが奴である充分な証拠だ…!!」
ゼフはそう言うと次にルフィの背後で四角になっている筈のウィルの方を一瞥する。
「そしてもう一人の嵐を呼び寄せた男。嵐を呼び寄せるなんて大層な事が出来て更に綺麗な顔の男なら条件に当てはまるのは一人しかいねェ。ーーそうだろう?”太陽と月を追う狼”」
ゼフが呼び掛ける様にしてルフィの後ろーーウィルに顔を向ける様子にその場にいる人間全てがその方角に目を向ける。ウィルは表情を崩すでもなく、ただ無表情でその場に座っていた。