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「ま、まさか料理長オーナー、そいつが太陽と月を追う狼スコルハティだとでも言うんですか!?」

「そうだ」

「あいつが”太陽と月を追う狼スコルハティ”?」

サンジが信じられない様な目でウィルを見る。その傍でギンがガタガタと恐怖で体を揺らした。

「あ……!うあっ…!!あんたっ………!」

「なに?」

「なにじゃ…っ!!あんたのせいでおれ達は艦隊をめちゃくちゃにされたんだっ!!!」

「ああ、それで?」

「なっ…!!!」

まるでどうでもいい、とでも言いたげな態度のウィルにギンが絶句する。そしてもう一度あの冷めた瞳を見て背筋を凍らせた。鷹の目の男とはまた違う、動くことさえ許さないような冷めた視線に冷や汗をかいた。

「あんたとあの男がいなけりゃおれ達がこんな風になることはなかった!」

「そう。言いたい事はそれだけか?」

「おいウィル、お前のことだ、何か訳があってやったんじゃねェのか?」

ゾロの問いかけにウィルが無言で頷く。

「な、なんだよ!おれ達はあんた達に何もしてねェぞ!!」

「50隻の艦隊全ての船員の一挙一動を把握して言ってるのか?」

「それは…」

「お前達の艦隊の一船が運悪くもおれとミホークに大砲を撃って来た。だから返り討ちにする。立派な正当防衛だ」

「そんな…!!!」

「事実だ。おれに吠えてるヒマがあったら部下の尻拭いでもしてろ」

そう切り捨てるとウィルはギンから視線を逸らした。そんなウィルをルフィは黙って見つめる。

「なんだ、軽蔑したか?ルフィ」

「いや、してねェ。だけど昔のウィルはここまでしなかったぞ」

「昔は昔だ、ルフィ。残念だが今のおれは”こう”だ」

「いいよ。ウィルはおれの兄ちゃんだ。昔と違ってもおれはウィルが好きだ」

ルフィは帽子を被りなおすといつになく真剣な表情でウィルの目を見つめた。

「だからウィルが道を踏み外しそうになった時はおれが止める!」

「…!!」

予想外の答えが返って来た。まさか破天荒で手の掛かる弟にそんな事を言われる日が来ようとは思わなかったのだ。ウィルは少しの間目を見開くと次の瞬間フッと笑ってルフィの頭を帽子の上から撫でた。

「ありがとうな、ルフィ。そうしてくれ、もしおれが道を踏み外しそうになったその時は」

「おう!任せろ!!」

陽だまりのような笑顔を見せるルフィにウィルは再び微笑む。滅多に見せない彼の微笑む姿はその場にいた者達の目に焼き付いた。やはりルフィといると自分の中で何かが変わってくる。そんな気がした。

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