036
「あいつと雑用の仲間が…50隻の船を沈めたってのか…!?」
「…じゃあたった今クリークの船を破壊したのも!?」
「普通の人間と変わらねェぞ…特別な武器を持ってるわけでもなさそうだ…」
バラティエの方に向かってくるミホークを眺めながらコック達が口々にそう言う。それを見かねたゼフはミホークの背に背負われている黒刀を見つめた。
「武器なら背中にしょってるじゃねェか!」
「そんな…まさか!」
「……じゃああの剣一本で大帆船をブッた斬ったとでも!?」
「そうさ………”鷹の目の男”とは大剣豪の名。奴は世界中の剣士の頂点に立つ男だ」
その場の全員がミホークの登場に恐怖と驚きで動けない中、ウィルはふわりとミホークの船に降り立った。
「何日かぶりだな、ミホーク」
「ああ。しかしなぜこんな辺鄙な所にぬしがいる」
「気づいたら赤い土の大陸を超えていてね」
「フッ。また”例の能力”か」
「そう。でもおれが好きでやってる事だから仕方ないと言えば仕方ない」
「相も変わらず自由気ままな男よ」
「よく言われるよ。ミホーク、お前こそなぜここに?」
「ぬしも知ってるだろう。ヒマつぶしの続きだ」
そう言うと今までウィルと視線を合わせて会話をしていたミホークがクリーク達の方を一瞥する。その意味に気づいたクリーク海賊団のクルーが腰から銃を取り出した。
「フザけんなァーーーーっ!!!」
何発もの弾丸がウィルとミホークに向かってくる。ウィルはそちらを見向きもせず、黒刀に手をかけるミホークを黙って見つめた。
ミホークの刃先でフワッと弾道を変えた弾丸はそのままウィルとミホークを通過して行くと思いきや、踵を返すようにしてその弾丸は銃を持った男の方へ戻って行く。
「え…!?弾が!!!」
「ありえねェ速さで銃弾が戻って行くぞ!!」
「え……!!?うわァアアア!!!」
避ける暇もなく銃弾で体を貫かれた男は口から血を吐いて倒れた。ミホークの隣にいる冷たい色をした美麗なその男の瞳に全員が背筋に冷や汗をかく。
「おいジジイ、今のあいつがやったのか?」
あまりの一瞬の出来事にポロっとサンジがタバコを落としたのも気づかずにゼフに問う。
「そうだ。弾丸を弾き返すぐらいあの男には赤子の手を捻る程に容易い」
その言葉にサンジはルフィ達と共にいた時のウィルを思い返した。サービスで出したフルーツを食べていた時とまるで雰囲気が違う。別人のように冷たい雰囲気を醸し出すウィルに何が起こっているのかまだ頭が追いついていないようだった。
「風で弾き返したか」
「ああ…持ち主に弾を返してやらないといけなかったからね」
ミホークの問いに何でもないように答えるウィルに再び辺りが絶句する。
そんな中で、ルフィだけが真剣な表情でウィルを見つめていた。