046
「どうした?所詮口だけか」
つい数秒前までウィルを殺さんとする目つきだったアーロンは今、己の目を疑っていた。
攻撃する暇もなく、身体に電流が走ったかのような感覚と今まで一度も感じたことのない”恐怖”に身体が硬直する。
そしてウィルはそんなアーロンの肩をポン…と押した。
ドサッと地面に尻餅をつくアーロンを目にウィルの形の良い唇が動いた。
「よく覚えておけ これが貴様とおれのあるべき目線の高さだ」
「……!!!」
「うそ…」
「まるで相手になってねェな」
自分が尻餅をついたのすら気づかずアーロンはウィルの瞳から目をそらせずにいる。その様子に同胞達もウィルに気圧され、その場から動くこともできなかった。
その時、外からやってきた事情を知らない魚人が慌ただしくやって来た。
「アーロンさんアーロンさん!!ん?どうしたんだ」
「た、たいしたことじゃねェ それよりどうした?チュ」
「ああ、それがもう一人の鼻の長え奴を取り逃がしちまった!!たぶんココヤシ村に逃げ込んだと思うが」
ウィルはアーロンから視線を逸らすと未だ驚愕したままのナミの元へ歩み寄る。
「顔色が悪いぞ 何をそんなに青ざめる必要がある」
「な、何って!別にあんたがアーロンにボコボコにされたらオークションで値が下がるからよ!!」
「オークションか まずお前がおれをオークションに賭けることができたらの話だがな」
「そりゃそうだ」
ナミはギリッと歯をくいしばり、ウィルを睨みつけると踵を返して建物の中へ入って行った。
「おれは何か気に触るような事を言ったか?」
「気に触るっつーか正論すぎて返す言葉がなかったんだろ」
「なるほどね そうだゾロ、頼みがある」
「?なんだ 」
「悪いがお前にはこのまま捕まっていてほしい」
「わかった」
「いいのか?頼みと言ってもお前が嫌なら強制はしない」
「お前の頼みだ どうせ何か策があって言ってるんだろ」
「助かる」
「それにおれはお前のやる事に間違いはねェと思ってる」
ゾロのその言葉にウィルは少し驚いたような表情をすると、そうかと言って表情を戻した。
「危なくなったら迷わずおれを呼べ」
「ああ まぁそうそうお前を呼ぶようなことは起きねェよ」
縛られたままのゾロを見届けてウィルはその場から音もなく消え去った。
「(ウィルがあそこまで強いなんて…もしかしたら…ううん、私は誰も頼らない)」
先ほどのアーロンとウィルを目の当たりにしたナミは分かってはいたものの、あのアーロンを相手にあそこまで実力の差を見せつけたウィルに期待を抱く。
だがブンブンと頭を振ってその思考を掻き消した。彼がいつも言っていた手助けはしないという言葉を思い出したからだ。
「(約束の1億ベリーまであともう少し ウィルに頼らないでもココヤシ村は私の手で救ってみせる)」
アーロンパークの建物内を歩きながらナミは一瞬頭に浮かんだウィルを振り払うと決心を固めた。