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「邪魔なの…あんたが悪いのよ 魚人に手を出したりするから…」

アーロンパークに着くとちょうどウソップとナミが対峙していた。あまり良さそうな雰囲気でないのを感じながらウィルはその様子を傍観する。

「あんた達をここへ来させてしまったのは私の過失 その土地にはその土地の統制があるの。何事もなく事は運ぶはずだったのにあんた達は私の8年間の仕事を無駄にしかねない」

「…」

「だからせめて私の手で消してあげる」

「消す!!?ははは笑わせんな!!いくらおれでもてめェに消される程甘くねェぜ!!」

「ホゥ…あいつもだいぶ海賊らしくなってきたじゃねェか…」

「ブッ殺せナミ!!!」

「ケッ!ウィルが見たらお前にゃガッカリするだろうよ!!」

「ガッカリしてもらって結構よ 元々冷酷無慈悲なんて噂の出回る男、私はこれっぽっちも信用なんてしてないわ!」

ナミのその発言にウソップは考える。確かにそういう噂が流れているのは知っているが実際に接してみるとそんな事もないような気がする。確かに少し冷たい印象を受ける時もあるがそれにはいつも何かしらの理由があった。

「てめェナミ よくそんな事が言えたな!あの催眠術野郎にチャクラムでやられそうになった時ウィルがいなかったらお前はあの時死んでたんだぞ!!」

「私を助けたのなんてあいつのただの気まぐれよ 私は助けてなんて一言も言ってない!」

「口の減らねェ女だぜ…!ウィルは言葉には出さねェが少なからずお前を心配してた!」

「…っ!またあんたの得意なウソで私を揺さぶるつもり?お生憎様だけど私を騙すならもっとマシなウソつくのね!!」

「ウソだと思うなら本人に聞いてみろ。必殺!!!”煙星”!!!」

ウソップが煙幕を起こす様子を見ながらウィルは予想外の彼の言葉に瞳を揺らした。

ゾロを見捨てたのは決して許されることではないが自分はさっき魚人に追いかけられるウソップを見て見ぬ振りをした。そこに罪悪感は感じなかった。

だがどうだろう、ウソップの自分を庇うようなセリフにウィルの心に少しの罪悪感のような、違和感が生じた。

だが自分でもその違和感が何なのかがわからなかった。感情の変化に疎いウィルには。

「どうせそんなことだろうと思った あんたの考えそうなことよね」

ガンッ!!

「うげっ!!!わ…わわわやめろォ!!」

ウソップに迫り来る短剣を見てウィルがその場から動き出す。

ガシッ

「……っ!?」

「ウィル!?」

ギリギリまで様子を見ていたウィルだが、ウソップを刺すフリをしてナミが自分の手を刺そうとするのを目にして彼は敢えて武装色を使わずに短剣を素手で掴んだ。武装色を纏えば怪我を負うことも無かったはずなのに。

ポタポタとウィルの手から滴り落ちる鮮血にナミとウソップが言葉を失う。世界最強の男と謳われる、血を流すことなど無縁そうな彼が今この場で血を流しているからだ。

「ナミ」

「悪く思わないで…! あんたが勝手に出てきたから」

「助けて欲しければ何故素直にそう言わない」

「ウィルが、あんたがいつも言ってるじゃない!手助けなんてしないんでしょ!?」

「言ったな。だがおれは”絶対に”手助けをしないとは一言も言ってないぞ」

「…!!」

「煙幕が晴れる前に行くぞウソップ」

「お、おう!!」

自分の腕に捕まるウソップを確認してからウィルはフワッと宙に浮く。

「強がりはいいが あまり一人で思い詰めるな」

「……っ!!!」

そう言い残してウィルとウソップはアーロンパークから姿を消した。一方、ナミはウィルの言葉にグッと下唇を噛んで俯く。ウィルに助けを求めてココヤシ村の皆にもしものことがあれば…でも助けてもらいたい。葛藤する感情にナミはどうしたらいいのかわからなくなって硬く目を瞑った。

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