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「そうだったのか…おれはてっきり殺されるもんだと」

「あの状況では無理もない 気に病むな」

ウソップの表情から感情を読み取ったウィルは相変わらず冷静な声色でそう言った。それに対しウソップはコクンと頷く。

「待てよ、じゃあなんでナミさんはおれ達にあんな言い方したんだ?まるでウィルを故意に刺したみてェなよ」

「確かにな。あれじゃ誤解されるのは目に見えてる」

サンジとウソップが顎に手を添えて考え込む。その様子を静かに見つめながらウィルは血に濡れた自分の手のひらを眺めた。

「あいつはおれ達にこの村を出て行って欲しいと思っているからな 自分の事情におれ達を巻き込みたくないんだろう」

「なるほどな」

「しかしなんて優しいんだナミさんは!」

目をハートにさせながら興奮気味にくねくねと動くサンジはさておき、視線を感じてウィルはゾロに目をやった。

「お前の了見はわかった つまりあの女を助けるってことか?」

「そこはおれが判断する事じゃないーーお前が決断を下せ ルフィ」

「おう!ナミを助けるぞ!あいつはおれ達の船の航海士だ!」

意気揚々にそう言ったルフィを見て話にひと段落がついたところでウィルは近づいてくる足音のする方に顔を向ける。

「無駄だよ あんた達が何をしようとアーロンの統制は動かない」

「……」

「だれだ?」

「ナミの姉ちゃんだ」

「ンナ!!…ナ!!ナミをさんのお姉さま さすがお綺麗だ〜〜」

「無駄ってのはどういうことだ?」

「お願いだからこれ以上この村にかかわらないで いきさつは全て話すから大人しくこの島を出な」

ノジコはその場にいる面々を見ながらウィルで視線を留めた。

「(あれがナミの言ってたヤツね)」

つい先ほど突然ナミが家を訪問し、ストレスで家を荒らしにきた時のことを思い返す。

「あいつはズルいのよ 手助けはしないって言ったりするって言ったり!」

「落ち着きなよ どうした?」

「ここまで乗ってきた船の船員なんだけどそいつのせいで頭がごちゃごちゃになりそうなの!」

「うん」

「顔がよくて強いからって人を惑わせることばかり言って 冷たい男だと思ったら頼れとか言われて!人を振り回すだけ振り回して気分が悪いったらないわ!」

「そっか ナミはそいつのことが大切なんだね」

「今の話聞いてた?ノジコ」

「うん だってどうでもいいヤツの事であんたがそこまで悩むはずないもの」

「べつに…あんなヤツどうでもいいわよ!」

「口ではそう言ってるけどさ あたしには分かるんだよ。本当はナミがどう思ってるかなんて」

「……」

「なんてったってあたし達は姉妹だからね!」


それからしばらくして眠りについたナミを置いてルフィ達の元へやってきたノジコは神が美しくこしらえた人形のような端正な外見をしたウィルをただじっと見つめていた。

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