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ノジコの無遠慮な視線に当然ながら気づいていたウィルだったが、特になんの反応もせず彼はルフィの動向を見守る。

「おれはいい あいつの過去になんか興味ねェ!!」

「……」

「ウィル 散歩に行ってくる!」

「そうか あまり遠くに行くなよ」

「おう!」

「散歩ってお前っ!!話聞かねェのか!?」

「うん いい」

「いいって…おいウィル!お前兄貴だろ?ちょっと自由すぎるぞあいつ」

「言い出したらルフィは聞かないからね 諦めな」

「うおいっ!それでいいのかブラコン兄弟!」

ウソップの抗議の声をさらっと右から左に受け流し、ウィルはノジコに視線を移した。

「話さないの?」

「っええ、話すわ。でもあいつはいいの?」

「気にすんな ああいう奴さ。うちの副船長以外手に負えねェ自由人だ」

「へェ あの協調性のねェ野郎がお前の言うことは聞くのか」

「確かにあいつに協調性はないな だがその分ルフィといると退屈することはない」

「それには同感だ」

「まァあいつ何しでかすかわからねェからな」

「退屈しねェっていうかソレただのトラブルメーカーじゃねェか」

ゾロ、ウソップ、サンジが口々にそう言い合う様子を眺め、ウィルは再びノジコに視線を移した。

「すまない 話が逸れたな」

「あたしは大丈夫だけど…」

「そういや話の途中だったな」

「とにかく話ならおれ達が聞く 聞いて何が変わるわけでもねェと思うがね」

この中で一番ナミを警戒していたゾロがそう言ったことに感心しようとした矢先、瞬く間に眠りについたゾロを見てウィルは少しばかり目を見張った。

言っていることとやっていることがあまりにも違っていたからだ。やはりミホークとの戦いがまだ響いていたのだと推測する。

大きないびきをかきながら眠るゾロを見て破天荒はルフィだけではないな、と改めてウィルは思った。

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ノジコが語ったナミの過去は10歳の少女には些か辛い内容だった。

「8年前のあの日からあのこは人に涙を見せることをやめ決して人に助けを求めなくなった…!!!あたし達の母親のようにアーロンに殺される犠牲者をもう見たくないから…!!!」

ナミの過去を知って自分に助けを求めようとしていたのを躊躇っていた理由が分かった。

無意識に強く握っていた拳に気づいて力を緩める。

「(だから頑なに頼ろうとしなかった、か)」

「わずか10歳だったナミがあの絶望から一人で戦い生き抜く決断を下すことがどれほど辛い選択だったかわかる?」

「……村を救える唯一の取引のためにあいつは親を殺した張本人の一味に身を置いてる訳か…」

「あァ愛しきナミさんを苦しめる奴ァこのおれがブッ殺してやるァ!!!」

鼻息荒く憤慨するサンジの頭を容赦なくゲンコツで沈めたノジコ。ウィルはその様子を眺めながら微かに耳に届く騒音のする方に一人、静かに歩き出した。

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