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「あ、ああぁ!?なんっ…なんだってこんなとこに"太陽と月を追う狼"が…!!?」
「お前たち海軍がここへ来たのはアーロンの差し金か?」
驚きのあまり尻餅をついて倒れたネズミはなぜこんな"新世界"でも、ましてや"偉大なる航路"でもない村に太陽と月を追う狼がいるのかという疑問で頭が埋め尽くされた。
とても自分の手には負えないウィルの存在にネズミは震えを感じた。
一方、質問しても答えない、と言うより答えられないネズミに少し気を悪くしたウィルは尻餅をつくネズミの前まで歩み寄ると立ちながら彼を見下ろした。
「答えないつもり?別にそれでもいいけど、おれは」
「い、言う!あんたの言う通りアーロンにこの泥棒女の家に行けば一億ベリーが手に入るって言われて来たんだよ!おれは!」
「そう。だってよ ナミ」
「…っ!!」
「お!ウィルとナミじゃねェか!どうした?なんかあったのか?」
「………まだここにいたの!!?」
突然現れた能天気なルフィに苛立ちを感じたナミはその胸ぐらを掴んでもの凄い剣幕で怒鳴り散らした。アーロンが海軍を送り込んだ件や今までの苦労、ルフィの仲間だという発言が総合して耐えきれなかったのだ。
「あんたには関係ないっ!!!!…っあんたもよウィル!!こんなことして助けたつもり!?さっさと島から出てって!!!」
そう言い捨て、勢いよく走り去って行くナミを目で追いながら突き飛ばされたルフィを受け止める。
「うわっと!倒れるとこだった!ありがとな ウィル」
「…」
「ししし!ウィルの言いてェことはわかってる!少し行ってくるからここは頼む」
「ああ 行ってこい、ルフィ」
「おう!」
ナミの後に続いて走って行ったルフィを柔らかく見守り、弟の成長を喜ばしく思っていた矢先、グイッとズボンを引っ張る感覚にウィルは黙って下を向いた。
「な、なァ?正直に答えたしおれのことは見逃してくれるよな!?…そうだ!なんならあの王下七武海に推薦してやってもいい!な!?」
「お前みたいな薄汚い海兵と喋る気はない。おれとまともに話したいなら大将か元帥あとは…そうだな、五老星を連れてくるといい」
「はっ!?どういう…ってうわァあ!!まてまてやめっぐぼォ!!!」
言いながらネズミの顎を掴んでその頬を平手打ちしたウィル。綺麗な弧を描いてふっ飛んで行ったネズミを見て口が塞がらないノジコとゲン、そして村の人々は改めて"太陽と月を追う狼"という男について思い知らされたのであった。