057
ナミとルフィが去ってからと言うもの、ゲンや村人達が慌ただしく武器を取り、殺気立った様子で士気を高めていた。
状況を整理するにどうやら彼らは村人全員でアーロンに立ち向かう所存らしい。
例え村人全員で応戦したところで相手は魚人。
それも戦い慣れていない村人達が加わったところで大した戦力にもならない。己の力量を推し量るのは戦にとって必要不可欠。それをせずただ挑むなど無駄死にだ、と冷静に分析するウィルは走ってくるナミを目にして首を傾げた。ルフィはどうしたんだ。
「待ってよみんな!!!」
「ナミ……!!」
「もう少しだけ待ってよ!!私また頑張るから!!!はは…もう一度お金貯めるから!!!簡単よ今度は…」
「ナッちゃん…」
「……」
心配をかけないようにと引きつった笑顔を貼り付けてそう言ったナミのその健気な姿にゲンが一つ涙をこぼし、ナミを抱きしめた。
「もういいんだ………!!!無駄なことくらいわかってるだろう…我々の命を一人で背負って……よくここまで戦ってくれた……!!!お前にとってあの一味に入ることは身を斬られるより辛かったろうに……!!!」
人が見れば大概感動するような、心を締め付けられるようなこの状況下で冷たい色の瞳を持つ男、ウィルは綺麗に型どられた眉一つ動かさずその光景を静かに見ていた。
それもナミの為にと武器を取った村人達を見て自ら死にに行くようなものだと内心滑稽に思いながらである。冷酷無慈悲と噂される根元が実はここにあるのだ。
「いくぞみんな!!!勝てなくてもおれ達の意地を見せてやる!!!」
オオォオオオオ!!と血気盛んに武器をもちアーロンの元へと行ってしまった村人達を背にナミがカクンと膝を折った。その場には地に座り込むナミとそれを民家に寄りかかりながら見ていたウィルだけが残っていた。
「アーロン…!!!アーロン!!!アーロン!!!アーロン!!!!」
忌々しげに吐かれたアーロンの名前。それと同時に涙を流し何度も何度も肩に彫られたアーロン一味の刺青を短剣で刺す。
短剣を刺した場所から溢れ出てくる血を見てナミを止めようとしたウィルだったが、現れた弟の姿に彼はピタリと動きを止めた。
ガシッ
「ルフィ…!!」
ルフィが短剣で肩を刺し続けるナミの腕を掴む。
「なによ…!!何も知らないくせに…!!!」
「うん 知らねェ」
「あんたには関係ないから…!!島から出てけって……!!言ったでしょう!!?う…う……!!」
「ああ 言われた」
淡々と聞かれたことに対して答えるだけのルフィと嗚咽を漏らしながら項垂れるナミ。少し間を置いてから、縋るような声と涙に濡れたナミの瞳がルフィを見つめた。
「……………!!!ルフィ………助けて…」
スゥウウウ…!!!
「当たり前だ!!!!」
怒り心頭といった様子でそう叫ぶルフィ。そしてそんなルフィの大切な麦わら帽子を被せられ驚くナミ。ようやく本心を曝け出したナミの想いのこもった一言はルフィやゾロ達だけでなく、そこに佇む美麗な男の心境の変化にも少なからず影響を与えていた。