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「少しあいつらの様子を見てくる」
「待って!なら私も」
ゆっくりと立ち上がったウィルに続いて立とうとするナミの肩をやんわりと押さえ、ウィルは首を横に振った。
「状況を整理してもう少し落ち着いてから来い。待ってるから」
「ウィル…」
「また後でな」
ポンっと麦わら帽子の上からナミの頭に手を置くとウィルは風と同化するようにその場から姿を消した。
「うわああああああ!!」
アーロンパークへ向かう途中、死に物狂いで走るウソップと出会ったウィルは一体何を叫んでるんだと眉を顰めた。
「ってウィルじゃねェか!助かったァ〜!」
「どうした」
「よくぞ聞いてくれた!あのサカナ野郎がおれを追ってくるんで逃げてたんだ!」
「そうか 頑張れ」
真顔でそう言ってその場から離れようとしたウィルを慌てて引き止めたウソップは当たり前のように助けを求めようとしてふと我に返った。
そういえばこの美麗な男はなんの努力もせず最初から頼ってくることを嫌う。いや、だからと言って自分にあんな魚人を相手にできるとはとても思えない。
そんな事を考えていると掴んでいたウィルの腕がするりと手から離れた。
「何事も挑戦しなければ成功はない お前ならできると信じてる」
「え…おいおい そんな褒めてもーーって言ってるそばから消えやがった!」
いざ再び一人になったという事でソォーっと後ろを振り向くとすでにかなり距離が縮まっていたのを目にしたウソップは全力疾走で村を駆け回るのだった。
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「…ルフィは海か」
アーロンパークに着いたウィルはノジコによってなんとか海から顔だけ出しているルフィを見て目を細めた。
ルフィは猪突猛進タイプだ。それがパワーにもなるがこうして命取りにもなる。能力者にとって海は最大の弱点なのだということを今一度ルフィに叩き込まなければと一人考える。
ヒュッ!
ジュワッ
飛んできた水滴を持ち前の能力で蒸発させたウィルはズンズンとこちらに向かってくるアーロンを見つめた。
「よく来たな下等種族 ちょうどテメェをこの手で殺したくてウズウズしてたところだ」
「冗談でも度が過ぎると笑えないな」
「安心しろ 笑うヒマなんざ与えねェ!今すぐブチ殺してやる!!」
アーロンが海に潜って行くのをただ黙って見ていたウィルは特に気にすることもなく消耗しきって倒れているゾロの元へと向かった。
「無事か ゾロ」
「ああ…なんともねェ」
「その傷でなんともねェワケがねェだろうが!」
「傷口がまた開いてる。いいか、おれがいいと言うまでその場から動くなよ」
「言わんこっちゃねェ っと、それよりウィル お前さっきのサメ野郎だが気をつけろよ」
「気をつける…?」
「だから!お前を殺そうとしてんだろ?あいつは」
「バーカ ウィルの相手かよあんな半魚野郎」
ウィルが呑気にゾロの怪我を観察している時、海の方に動きがあった。
「"鮫・ON"…"DARTS"!!!!」
ドバァン!と勢いよく海から飛び出して来たアーロンに誰もが反応できずにいる。
一直線に標的へと向かうアーロンの鋭い目がウィルの横顔を捉えた。
はずだった。
ガシッ
「…っな!!」
アーロンの血走った瞳が大きく見開かれた。それを間近で見ていたサンジも同様、開いた口が塞がらないようで。ゾロはだから言ったろ、と得意げな表情をしていた。
「弱い犬ほどよく吠える…この場合は魚か ともかくおれはそういう身の程知らずが一番嫌いなんだ」
鼻先を手で掴まれ、眉ひとつ動かさずアーロンの巨体を振り上げたウィルにこれで何度目か信じられないという表情が向けられる。
「…ガハァッ!!!」
壁に叩きつけられたアーロンの姿に魚人達の顔色が一斉に青ざめた。