062
「アーロンッ!!!!」
「…ナミの姉貴…!!」
「ナッちゃん…」
アーロンがウィルによって壁に叩きつけられたことでピリピリと張り詰めていた空気を裂くようにナミの声が響く。
「ナミか…今おれは機嫌が悪い…!!!手短に聞こう 何しにここへ来た?」
ガラガラ、と体に覆いかぶさる瓦礫を退けてアーロンが立ち上がる。
「あんたを殺しに……!!!」
「ほゥ?おれ達といた8年間…お前がおれを何度殺そうとした…?暗殺…毒殺…奇襲…結果おれを殺せたか!!?貴様等人間ごときにゃおれを殺せねェことくらい身に染みてわかってるはずだ…!!!」
「?何言ってやがるあのサメ野郎 たった今ウィルにやられたばかりじゃねェか」
「記憶力がねェんだろ 魚だから」
至極不思議そうな顔でそう言ったサンジにゾロがそう答える。幸いアーロンには聞こえていなかったようで、ウィルはそんな二人を見て黙って首を横に振った。
話が進まないから細かいことは気にするな、という意味だ。
「いいか…おれはお前を殺さねェし…お前はおれから逃げられん…!!!お前は永久にウチの"航海士"でいてもらう」
アーロンがナミを脅すのを聞きながらウィルはルフィの頭を掴んでいるゲンの元へ歩み寄った。
「あんたはさっきの…!」
「弟が世話になった ここからはおれが変わろう」
ゲンと交代したウィルはルフィの頬を軽く叩いてみる。当たり前だがこの程度では起きない。相変わらず手のかかる弟だ。そう思いながらもウィルの表情はどこか優しげだった。
「……おれはこれからここにいるお前以外の人間を全員ブチ殺すことになる訳だが…お前がもしまた"アーロン一味"に快く戻り 幹部として海図を描くというならそこにいるココヤシ村の連中だけは助けてやってもいい……!!」
アーロンがココヤシ村の住人達を視界の端に捉えながらそう言う。
「まあ…こいつらはダメだがな 暴れすぎた 特にあの男だ…!殺さねェとおれの気が収まらねェ!!ーー話が逸れたが…つまり要はどっちにつくかだ…今の内におれについて村人とともに助かるかこの貧弱どもについてみんなでおれと戦ってみるか…!!」
ゴクリと誰かの息をのむ音が聞こえる。
「ナミ…!!!お前はおれの仲間か?それともこいつらの仲間か…?」
アーロンに持ちかけられた提案にナミが言葉に詰まる。
「(…そんな…!!"ルフィ達の仲間"だと言えば…全員殺されて "アーロンの仲間"だと言えば村のみんなは助かる…!!?私の一言でみんなが…!!!」
一体どうすれば、と拳を強く握り締める。
「あたり前だ!!!!」
「強がりはいいが あまり一人で思い詰めるな」
助けを求めた時のルフィの心強い言葉と、切羽詰まった時に言われたウィルの一言が脳裏をよぎる。
「(でも…私は…!!!あいつらの言葉を疑っちゃいけない……!!!)」
答えは出た。ナミはグッと顔を上げると村人達に顔を向けた。
「ごめんみんな!!!私と一緒に死んで!!!」
決意を固めたナミに村人達がもちろんだと揃って声を上げる。迷いの消えたナミの表情を見てウィルは無意識の内にわずかに上がっていた口角に気づかずその光景を見つめていた。