064
「…仕方がない。ゾロ ルフィを頼む」
「待てウィル お前が出るまでもねェ。おれが時間を稼ぐからお前はそのままルフィを持ってろ」
「その傷で何を言ってる。手助けはしないとは言ったがそこまでボロボロなお前を尚戦わせる程おれは鬼じゃない。お前は休んでいろ」
「ハハ、ありがてェ申し出だがやっぱりそりゃできねェな」
ウィルはキュッとバンダナを結び直し立ち上がったゾロを黙ったまま見つめる。
「おれはこの先もっともっと今以上に強くなっていずれ世界一の大剣豪になる男だ。こんな所でお前の手を借りるワケにはいかねェんだよ」
「…!そうか なら止めはしない。気をつけて行け」
「悪ィな。っつーことでルフィは頼んだぞウィル!」
ガチッと刀の柄を咥えてアーロンの元へ走って行ったゾロの背中を目で追いながら考える。
未だかつて強さを求める事にこれ程までに貪欲な男がいただろうかと。夢を夢と諦めず突き進むその姿が、ウィルには少し眩しく見えた。
「ししし!やる気マンマンだなーゾロのやつ。よし!おれも強くなるぞウィル!!」
「強くなるのはいいがまず海から上がって来ないとな」
「おう!海から上がったらあいつはおれがブッ飛ばす!」
首から下全て海に浸かっていながらもどこか元気そうなルフィの頭をポンポンと撫でていると、遠くの方から聞き慣れた声がウィルの鼓膜を揺らした。
「"卵星"っ!!!」
「!!」
「援護するぞゾロ!!!存分に戦え!!!」
ゾロと交戦中のアーロンめがけて卵を狙撃したのは先程魚人に追いかけられていたはずのウソップだった。
かなり遠くの方からの援護だがそれに気づいたナミがウソップの無事を目に安堵する。
「聞けナミ!!!おれ様が幹部を一人幹部を一人幹部を一人仕留めたぜ!!!」
何度も"幹部を"と強調するウソップはこちらを見ているウィルの存在に気付き、堪らず彼に向かって声を張り上げた。
「ウィルーっ!!おれはやったぞーー!!!」
ウィルの"信じている"という言葉を思い出し若干涙ぐみながらそう叫ぶウソップにウィルがコクンと頷いてみせた。
その頷き一つでウソップは全てが報われる気がした。逃げてばかりだった自分が仲間に誇れる戦いができたのだ。
ウソップはその勢いのままアーロンに向かって大きく声を張り上げた。
「おいアーロン!!!こっちを向けェ!!!」
その言葉にアーロンがウソップの方に顔を向けた。勇ましくそう言い放ったウソップはというと、輪ゴムを取り出すと親指にそれを引っ掛けもう片方の手でぐいーんと引っ張った。
「ウソ〜〜ップ輪ゴーーーム!!!」
何事もなかったかのようにアーロンがウソップからゾロへと視線を戻した。
「おれの前に立ちはだかるってことァまずはてめェが死にてェらしいな ロロノア・ゾロ!!!」
「今だいけっゾロ」
ウソップの掛け声と共にピン!と輪ゴムが飛ぶ。飛んだものの全く届いてない輪ゴムは虚しく地面に落ちた。
「その"自慢の鼻"ヘシ折ってやる!!!」
そんなウソップをスルーしてゾロがアーロンのノコギリのような鼻に斬りかかるが…
「バカが……ヘシ折れねェから"自慢の鼻"だ!!!お前がもし!!万全だったならば…!!……あるいは傷くらい残せたかもな!!!」
アーロンの迫り来る鼻を刀で何とか受け止めるゾロ。
そろそろ止めなくては本当に危ない。ウィルは息の荒いゾロを見つめた。胸の包帯は傷が開いたせいで血で真っ赤に染められている。アーロンなど例え両手が塞がっていようとも殺そうと思えばすぐにでも殺せるが故そんなに焦る事もないのだがゾロの傷がこれ以上開いては困る。
しかし先程ゾロから言われた言葉もあり助けるに助けられない。ギリギリまで待ってそれでも間に合わなかったら手を貸そう。ウィルは今にも死にそうなゾロから決して目を離さずに戦局を見守るのだった。