065
「ナミ」
「!ウィル」
「ルフィを頼めるか 」
「いいけど ウィルはどこに行くの?」
「ゾロの近くで戦局を見守る 無茶ばかりして死んでもらっては困るからな」
「…!わかった そういうことなら任せて!」
そう言って頷いたナミにルフィを任せ、ウィルは交戦中のゾロとアーロンの近くへ移動した。
「ウアあああ!!!」
「兄貴ィイ!!!」
ブスッという不気味な音と共にゾロが悲鳴をあげる。アーロンの鋭い鼻による攻撃を防ぎ切れず胸に巻いてあった包帯が血で真っ赤に染まっていく。
今助けるべきなのか。とても戦える状態でないゾロの様子を見ながら考える。
ゾロは十分戦った。ここから先は本当に命の危険がある。
だが満身創痍の状態でありながらも闘争心剥き出しのゾロの瞳がウィルを引き止める。
あと少し。この状況を糧に今この場で化けるかもしれない。ゾロには十分その素質があるのだ。
「ゾロォ!!!」
「この大層な包帯は…どこかで転んだか?」
バリッ
「ぐァ…!!!!」
首を掴まれ宙に浮いた状態のゾロの包帯を剥ぎ取ったアーロンはその壮絶な戦いの傷跡を見て目を見張る。
とても普通の人間が動けるような傷の深さではないのだ。
世界最強の剣士に斬られた傷はそう簡単には癒えない。
「!何だ この傷は…!!!」
「あ…!!!」
想像以上に酷いその傷にナミが口元に手を当てて顔を強張らせる。
「(………!!なぜこんな体で生きてられるんだ………!!?なぜ立ってられるんだ!!!)」
自分たちより非力な人間であるにも関わらずここまで酷い怪我をしていながら戦っていたのかとアーロンが驚愕する。
そんなアーロンを見下ろし、ゾロは獣の様な鋭い目つきを向けた。
「(なんて目をしやがる これが死にかけの男の目か!!? こいつは今…確実にここで殺しておかねばならん男だ!!!)」
先の未来で自分の脅威になるであろうと察知しアーロンがゾロにとどめを刺そうと動く。もうこれ以上は待てない。傍観はここまでだ。
しかし一歩動き出したウィルの耳にゾロの掠れた笑い声が響いた。
「へへ…」
「ア?」
「…大人しくしてりゃあ…開かねェ傷もあったのにな…!!!」
「…そういうことだな…てめェでてめェがおかしいか…」
「おれのことじゃねェよ…!!タコ助のことさ…」
「何!?」
「言っただろ…このゲームは…おれ達の勝ちだ…」
息を切らしながらもニッと笑ってそう言い切ったゾロを見つめる。
圧倒的に不利なこの状況下でも戦意を失わない不屈の精神。
ここまで伸び代のある男が未だこの東の海にいたとは。
とても人の下につくような男ではない。そんな男がルフィを見込んで彼の下についた。
ルフィの持つ人を惹きつける力には幾度となく驚かされる。ゾロは確実にこの先"化ける"男だ。そんな逸材を無意識のうちに引き込んでいくのは義兄弟の盃を交わした弟・ルフィ。
天性の資質と人を惹きつけるという類稀なる才能がこれからどのように開花していくのかが楽しみだ。
ウィルはようやく動き出したルフィを目に再び状況を見守る体制に入るのであった。