066
「戻ったァーーっ!!!」
バチィン!とゴムの反動でルフィが空高く舞い上がる。
「ルフィのアニギィ〜〜〜〜〜っ!!!」
「ルフィ……!!」
「遅ぇよバカ…!!!」
アーロンに首を掴まれながらではあるが、ようやく動けるようになったルフィを見上げてゾロがそう呟く。
「しししっ!ウィル!戻ったぞ!!」
「わかってる 行ってこい ルフィ」
「おう!よ〜し」
「ったく どんだけ兄貴が好きなんだあいつは」
満面の笑みでウィルを呼んで見れば分かることを嬉しそうに伝えるルフィにゾロがやれやれと言った風に呆れた顔をする。
しかしその呆れ顔も長くは続かず、ルフィの予想だにしない行動にゾロは驚かされる事になる。
「ゾロ!!!」
「は!?」
ルフィが腕を伸ばしてゾロの両肩を掴んだ。嫌な予感がするのを感じたがすでに遅く
「オイ…やめろ…まさか…」
「交替だ!!!」
「うわああああ」
ばひゅーんという小気味良い音と共に今度はゾロが凄い勢いで空へと舞い上がる。
その様子を見ていたウィルは一つ溜息をつくとどんどん遠くへ飛んでいくゾロの元へ向かった。
「無事か ゾロ」
「!ウィルっ!」
空中でゾロをキャッチしたウィルは幾分か申し訳なさそうな顔で口を開いた。
「ルフィがすまない あいつは昔から考えなしのところがあってな」
「まァなんとなく予想はしてたが…ウッ!」
言いながら呻き声をあげるゾロにウィルが開いた胸の傷口に目を向ける。
遠目からでも思ったが近くで見ると更に酷い。この傷でよくあれだけの戦いができたものだ。
ウィルはゾロの膝裏と背中に手を回すとそのまま空を飛んでアーロンパークの方へ向かって行く。
「おいウィル 運んでくれるのはありがてェがその持ち方どうにかなんねェのか?」
「我慢しろ この持ち方が一番傷口に負担を掛けない最善の方法だ」
所謂お姫様抱っこと呼ばれる持ち方でゾロを抱えるウィル。流石にこの体勢は男として色々きついものがある。
だが確かに傷口の場所からしてこの抱え方が最善なのはゾロでも分かる。
ここは我慢するしかないと思う一方で、ゾロはまるで何でもないかのように当たり前に空を飛んでいるウィルに内心とても驚いていた。
ルフィがゴムゴムの実なら一体ウィルはどんな悪魔の実を食べたのか。
いつ見ても彫刻のように整った顔立ちの男を見ながらゾロが考える。
「今回は正直お前に驚かされたよ」
「驚いた?お前が?」
「ああ 流石はミホークのお目にかかった男だとでも言うべきか」
「いや…まァ"鷹の目"には手も足も出せず惨敗だったがな」
「そう気を落とすな ミホークは世界中の剣士の頂点に立つ男。初戦であいつに黒刀を抜かせられれば中々上出来だ」
「刀を抜かせるのは大前提の話だ。だが今のおれじゃあのオモチャの短剣でさえ足下にも及ばねェ 次闘った時に勝つ為にもおれはこの先もっともっと強くなる」
「ああ お前ならこの先…きっとお前が思うよりもっと強くなれる おれはそう確信してる」
「……!!!」
視線はアーロンパークの方に向いているがしっかりとした口調でそう告げたウィルにゾロの目が見開かれる。
仲間と言えど桁違いに強い男にそんな事を言われれば驚きもする。だがこの男にそう言われたら否が応でも期待に応えたくなる。
徐々に近づくアーロンパークを眼下にゾロはなんとなくルフィがウィルに懐く気持ちが分かったような気がした。