067
「おれとてめェの絶望的な違いは何だ」
「はな」
……………。
「あご?」
アーロンとの違いを聞かれたルフィはすぐに目につく身体的特徴の違いを口にする。
だがしかしアーロンはそういう事を言っているわけではない。
素でふざけたような回答をするルフィにアーロンの額にピキリと青筋が浮かぶ。
「ア…アニキふざけてるんだろうか…!!」
「いや…きっと本心だ」
ヨサクがそう思ってしまうのも最もだった。ふざけているわけではないがその一言一言が余計にアーロンの怒りに触れる。
「水かき!!!」
「種族だ!!!!」
ガキィン!!!と歯と歯がぶつかり合う音が響いた。アーロンがその鋭いサメの歯でルフィに噛みつこうと向かっていく中、ルフィもルフィでなんとかそれを避けていく。
「ぎ!!」
だがとうとうルフィは首根っこを掴まれ石柱に押し付けられてしまった。ルフィの無防備な首筋にアーロンの歯が迫る。
「おい あのバカ…!」
「心配するな ルフィはあの程度でやられるような男じゃない」
ルフィとアーロンから少し離れた場所で成り行きを見守っていたゾロはさっそくアーロンに捕まり身動きの取れない状態になったルフィのピンチにハラハラしていた。
その一方、ウィルは弟の危機だというのにも関わらず少しの心配もしていないのか表情はいつもと何一つ変わらなかった。
なぜ心配をしていないのかと言われれば、それはルフィのことを信じているからに他ならない。
幼い頃から鍛えるためだという理由でガープによりジャングルへ投げ込まれていたルフィの事だ。
ワニに食べられそうになった時もトラに食べられそうになった時も、またある時はその両方から襲いかかられた時も、何とかして修羅場を乗り越えて来たのだ。今更サメ如きでどうにかなってしまうような男ではない。
「よっ」
ウィル達が見守る中、ルフィは自分の頭を掴むとグイッと首の位置を横にずらした。噛み砕こうとしていた対象が消えてアーロンの歯が後ろにあった石柱にめり込む。
「ばかめ!!石噛んで自爆しやがった!!あいつの歯は折れ…」
ウソップが言い切る前に石柱が不吉な音を立てて崩れ落ちる。
その様子を目の当たりにしたウソップやヨサク、ジョニー達は驚きのあまり目玉を飛び出させた。
「うォあああああ!!!石柱を噛み砕いたァ!!!」
「………!?あんなのに捕まったら歯型どころか骨ごと食いちぎられちまうぜ!!」
石柱を噛み砕く程の顎の力なれば人間の体などひとたまりも無いだろう。
ルフィが避けれなかった時の最悪の事態を想像してサンジの額に冷や汗が流れる。
「これは生まれ持った魚人の力だ 天はてめェら人間を差別し力を与えなかった だから下等なのさ!!!生まれた瞬間からすでに次元が違うんだよ!!!」
生まれながらにして人間をも遥か凌ぐ強靭な力。これこそが至高の種族である魚人族と下等な人間との違いだと言い切ったアーロンにゾロ、サンジ、ウソップの三人の脳裏に美麗な男の顔がよぎった。
その流れで行くとウィルもまた魚人に劣ると言われる種族の人間だ。
だが劣るどころか圧倒的な実力差で完膚なきまでにアーロンの攻撃を防ぎ返り討ちにしてみせたウィルは一体誰がどう説明するのか。
ルフィとアーロンの戦闘を見守りながら各々がそんな事を考えている中、ウィルはただただどこまでも冷たい色の瞳でアーロンを見据えるのだった。