006
 
ルフィがウソップを追いかけてどこかに消えたのと同時にウィルの姿も見えなくなり、ゾロとナミは辺りに腰を下ろした。

「ねェ、ルフィとウィルはどこ行ったの?」

「さあな。ルフィはキャプテンを追っかけてったんだろうがウィルは知らねェな」

「そう…。ねェ、スコルハティ…じゃなくて、ウィルの事なんだけど」

「あ?あいつがどうかしたか?」

「あの人、賞金首にしては異例のONLY ALIVE…それでいて噂では冷酷無慈悲でしょ?そんな人がルフィの幼馴染だなんて…」

「なんだ、あいつが怖いのか?」

両手を頭の後ろに回しながらゾロがからかうような眼差しでそう問いかけるとナミは慌てた様子で手を振った。

「ち、違うわよ!本当にそんな凄い人がアンタ達の仲間になったなんて普通に考えてすぐ納得できるわけないでしょ。それにさっきも言ったけど、太陽と月を追う狼スコルハティと言えば冷酷無慈悲って噂よね」

「あ?そりゃ太陽と月を追う狼スコルハティと言えばな」

「こんな短時間しか見てない私が言うのもあれだけど、私には噂通りの人とは思えないの」

「まァ、確かにな」

確かに自分達と話す彼は冷酷無慈悲どころかどこか優しさが含まれていたように感じるのだ。周りはあまりにも容姿が整っているが故に冷たい印象を持つのだろうが、どうもそうではない気がする。見ず知らずのウソップを思ってかどうなのかは定かではないがあの執事に楯突いたのも恐らく彼の優しさがあってこそだろう。そう考えながらゾロは青く澄み渡った空を見上げた。

ーーーーーーーーーー

「なるほどね。まァ、そういうことだろうと思った…」

「!誰だお前は!?」

「おい、話を聞かれたぞっ!」

村の一角。人気のない海岸の近くに止まっている海賊船の猫の形をした船頭に腰をかけながらウィルがそう呟いた。

「…!太陽と月を追う狼スコルハティ!何故こんなところに?」

太陽と月を追う狼スコルハティ!?聞いたことあるぞ!」

「おっ、おい!!待ってくれ、あんたこんな大物がいるなんて聞いてねェぞ!!」

ハートのサングラスとテンガロンハットを被ったマジシャンの様な格好をした男が冷や汗を垂らしながらクラハドールーーキャプテン・クロに走り寄る。その様を眼下にウィルは端麗な顔をそのままにキャプテン・クロを見つめた。

「おれのこと、知ってたんだ」

「あれだけ世界を騒がせておいて知らない奴がいるとすれば余程の田舎者だろう。まさかこの目で実物を拝められるなんて思っても見なかったよ」

「おい、何悠長に話してるんだ!相手は48億の賞金首だぞ!」

「騒ぐな、ジャンゴ。確かにおれ達が束になって掛かっても手に負える相手ではない。だが彼は特に危害を加えてくるわけでもない…。違うかな?太陽と月を追う狼スコルハティ

「おれが彼らの成長を妨げる訳にはいかないからね。…できる限り手助けをするつもりはない。おれが手を貸さずとも、きっとあいつらがどうにかする…」

「どうにかする?フハハハ!!面白い事を言うな、太陽と月を追う狼スコルハティ。彼らがおれの計画を阻止できるとでも?」

「そう言ったけど……理解できなかった?」

「テメェこの野郎!こっちが下手に出れば調子に乗りやがって!!」

会話を聞いていた下っ端の海賊が腰からピストルを抜くとそれをウィルに向け、狙いを定める。

「バカ野郎!!やめろ!!!」

パァアン!!!

銃声が静かな海岸に響いた。ウィルに向けて発砲された銃弾はどういうことか銃を発砲した男の眉間を貫いていた。ドサッと息絶えたそれが倒れれば辺りにいた海賊が恐怖に怯えた表情でウィルを見つめる。

「殺す気はなかったけど…条件反射かな。おれはそろそろ失礼するよ」

ヒョイッと何事もなかったかの様に船から離れてどこかへ向かうウィルの後ろ姿が見えなくなるまで、彼らはそこから一歩たりとも動くことができなかった。

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