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「そういえばレン、その首の赤いやつどうしたの?」
「へ…?」
外に出ると試験官が4次試験について説明を始めた。そんな中、ゴンがこそこそと小さな声で囁き、私の首元を指差した。
首…?首……っ!まずい。すっかり忘れていた。恐らくゴンはあの時ヒソカに噛まれた痕のことを言っているんだろう。……ここは誤魔化す他道はない。
「は、はは!これ?バレちゃったかー。実はタワーの中で変な虫に噛まれちゃってな」
「大丈夫?オレ薬とかもってないや…」
なんと優しきかな。こんなにも優しく素直な少年に嘘をついてるだなんて良心が痛む。だが流石に本当の事は言えない。というか言ってはいけない気がする。
「大丈夫!ありがとなゴン お前の優しい心遣いがおれはすごく嬉しい」
「レンが大丈夫ならいいんだ でも何かあったら言ってね!レンは友達だから心配なんだ」
「ああ!ゴンも何かあったらおれに言え ムカつく野郎がいればぶっ飛ばしてやるよ」
この子は将来タラシになるんじゃかいかと私は思う。純粋で素直で友達思いかつ可愛いだなんてオールマイティな要素を兼ね備えた少年、ゴン。短い半ズボンから覗く足も少年特有の可愛らしさがある。おっと、変態みたいになってしまった。
「次、406番!」
「おっとおれの番か」
モヒカン試験官に呼ばれ私はゴンと離れてクジを引きに行く。一番初めに引いたヒソカがすれ違いざまにボソッと私の耳元で囁いた。
「オソロイだね◆」
トントンとヒソカが自分の首筋を指差した先には私が思いっきり噛んだ歯型の痕がくっきりと残っていた。
ヒソカの首筋にある痕と私の首筋にある痕。周りからもしかしたら何かしら怪しまれているかもしれないという考えに行き着いた私は慌てて自分の首元のそれを手で隠した。
「クククッ」
「っんの変態ピエロ…!」
愉快そうに笑うヒソカに余計苛立ったがここで何か反応を見せれば奴の思うツボだ。私はボックスの中に手を突っ込んでカードを引いた。
「(197、か。つまりターゲットは…)」
説明にあった”狩る者と狩られる者”ということは恐らく今引いたカードの番号が私のターゲットなのだろう。引いたカードの番号と同じプレートを所持している奴を探す。…いた。あそこの三人組の一人か。まぁ楽勝だろう。
「レン、お前トリックタワー二番目にクリアしたんだな」
「ん?ああ、まぁね」
「ちぇっ オレらなんか時間ギリギリだったのによ」
「んーでも早く合格したからいいってモンでもないぜ なんてったって暇すぎてどうにかなりそうだったからな」
「へー 確かにヒマなのも勘弁かも ていうかレンは一人だったのか?オレらは固まってたけど」
「あっ!そういえばレン お前大丈夫だったのか!?」
キルアの問いにそばにいたレオリオが素早く反応する。
「嫌々ながらヒソカと一緒だったよ」
「やっぱりそうか!大丈夫だったのか?」
「うん まぁ手錠でヒソカと繋がれてたから敵と戦う時攻撃避けるのが大変だったぐらいかな」
「手錠!?」
「手錠か…戦闘において相当不利になると思うのだがそこは大丈夫だったのか?」
「モチロン◇」
クラピカの問いに対し、答えたのは突然どこからともなく現れた変態奇術師だった。何だコイツ、暇なのか。
「…っヒソカ!」
「おい変態ピエロ、いきなり現れるんじゃねぇよ」
「照れない照れない☆ そうそう キミの質問だけどボク達相性がイイから手錠してても特に枷にはならなかったよ◆」
「ウソつくなバカ!おれが避ける方向と全部逆行ってただろうが」
「ワザとだよ キミの反応が面白くてさ◇」
どうやらあの元試験官と戦っている時ヒソカはわざと私の避ける方向とは逆に避けていたらしい。だからあんな余裕な、どこか楽しんでるような表情でいたのか。
コイツ、と一歩足を踏み出そうとするとキルアに手を引っ張られた。