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「キルア ありがとうな 服まで借りちゃって申し訳ない この借りはいつか必ず返すよ」
「べつにいーよそんなの」
上半身裸で半ズボンだけを身に纏ったキルアが答える。
「そんなわけにはいかない キルア、寒くないか?」
あれからずっと目を瞑っていたキルアは私が服を着るとようやく目を開けた。
ちなみに身体も洗ってだいぶスッキリした。
服と言っても私の服ではなく、キルアから半ば無理やり、着ろ!と投げ捨てられた彼の服だ。
青いタートルネックと半袖のVシャツ。
胸をサラシで潰し、半袖のシャツを着て青いタートルネックは腰に巻いた。とても短い半ズボンのような形にはなったがまぁ許容範囲だろう。
「寒くねー。それよりお前なんで女なのに男のフリしてんだよ」
「ん?ああ、それはだな 男の方が何かと便利だからだ。人間関係もさっぱりしてて楽だしな」
「ふーん ……オレ以外にお前が女って知ってるやついんの?」
「うん いる」
「はぁ!?誰だよ」
「な、なんで怒った!?」
「うるせーな いいから言えって!」
「あ、はい。ヒソカとギタラクルです」
キルア少年の気迫に押されて思わずかしこまって答えてしまった。なんで怒ってるんだ?
「ヒソカとあの針野郎か…」
「う、うん」
「お前がバラしたのか?」
「いや、不可抗力で」
問いただされて母親に怒られる子供のように素直に答えるとキルアはため息をついていた。一体何のため息だね、キルア少年よ。幸せが逃げるぞ。
「なんとなく状況はわかった。これからどうするんだ?」
「んー 身体もスッキリしたしターゲットでも狩りに行こうかなと キルア、嫌じゃなければ一緒に行かないか?」
「いいぜ お前一人だと心配だし(これじゃいつ女だってバレても可笑しくねーっつーの)」
「あ、ありがとう?」
「おう じゃあ行こうぜ」
12歳の少年に心配される私って何だ?とは思ったが服も貸してもらったことだしここは大人しくしていよう。
「ヒソカにはなんでバレたんだよ」
「ああ、実はおれが海に落ちた時ヒソカが助けてくれたんだ。おれ泳げなくてさ。その時にバレた」
「へー あいつ人助けとかすんのな」
「ぶっちゃけおれも驚いたよ」
今考えてみるとあの時なんでヒソカは私を助けてくれたのだろうか。自分のせいで私が落ちたから?ーーいや、ない。あいつはそんなことで人を助けるような人間じゃないのはここ最近接してきてよくわかる。
じゃあなんで?と頭の中が振り出しに戻る。答えの出ない問題をぐるぐると考えていると頭が痛くなってきた。
だから難しいことを考えるのはあまり好きじゃない。
「ゴンは知らないんだよな?」
「おれが女だってこと?」
「ああ」
「知らないと思うよ 言ってないし」
「あっそ」
そう答えるとなぜかキルアの機嫌が若干良くなったのが感じられた。
なんだなんだ、一体何に気を良くしたんだ?
意外とこの歳の少年の心理を理解するのは難しいものだとしみじみ思った。