04
漸く薄暗い地下から地上へ出たところでサトツが足を止めた。ジメジメとした空気に嫌気がさす。
「ヌメーレ湿原 通所”詐欺師の塒” 二次試験会場へはここを通って行かねばなりませんこの湿原にしかいない珍奇な動物達 その多くが人間をあざむいて食糧にしようとする狡猾で貪欲な生き物です」
サトツが湿原について説明している最中、後方に真新しい気配を感じて私はそちらに目を向ける。こちらをじっと見つめるのは全体的に細い身体をした猿だった。
これがサトツの言う珍奇な動物なのだろうか。
「十分注意してついて来て下さい だまされると死にますよ」
猿が姿形を変えて動きだす様子を見ていると人間に化けた猿は受験者達の前に姿を現した。
「ウソだ!!そいつはウソをついている!!そいつはニセ者だ!!試験官じゃない オレが本当の試験官だ!!」
サトツを指差しながらそう言う人間に化けた猿。こんなのに騙されるのがいるのかと周りを見れば戸惑った表情を浮かべる受験者が多数いた。
「バカバカしい…」
「レン?大丈夫?」
「ああ。大丈夫だよ すぐ終わるから」
「え?」
「はぁ?何がすぐ終わるんだよ」
ゴンとキルアが不思議そうな顔で私を見る。私はそれに答えるでもなく能力で空中に氷柱を作り、猿の額目掛けてそれを放った。
それと同時並行に私とは別の方向から猿に向かってトランプが投げられた。猿は額のど真ん中に氷柱が刺さり、顔まわりはトランプが突き刺さった状態でその場に倒れた。
そしてそのトランプはサトツにも投げられていた。大方どっちが本物なのか確認するためなのだろう。
「すごい!いまのどうやったのレン!?」
「やっぱりお前強いじゃねーか!何だよ今の」
「わかったわかった、その話は後でな」
興奮するゴンとキルアの口元にしーっと人差し指をあてがうと二人はピタッと黙った。
そしてすぐ様ねっとりとしたどこか気持ちの悪い視線を感じてその方向へ視線を移すと、トランプを投げたとみられるピエロの様な格好をした男が私を見てにんまりと微笑み、あろうことかウインクを飛ばされた。
途端にゾワゾワッと全身に鳥肌が立つ。気味の悪い。これは恐怖ではないのだが、一体何なのだろう。
「くっく なるほどなるほど◇」
死んだふりをしていたもう一匹の猿をもトランプで切り殺した男は愉快そうに笑う。
それにしてもただのトランプであの殺傷能力、あの男は只者ではない。
「あの猿死んだふりを…!?」
「これで決定◆ そっちが本物だね。試験官というのは審査委員会から依頼されたハンターが無償で任務につくもの☆我々が目指すハンターの端くれともあろう者があの程度の攻撃を防げないわけがないからね◇」
「ほめ言葉として受け取っておきましょう しかし次からはいかなる理由でも私への攻撃は試験官への反逆行為とみなして即失格とします よろしいですね」
「はいはい◆」
ピエロ男はサトツを軽くあしらうと再び私と視線を合わせた。舌舐めずりをしながらニヤニヤとされるものだから思わず近くにいたゴンとキルアの手を握ってしまい、どうしたんだと心配された。