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授業が終わって再び休憩時間。さっきの休み時間にお手洗いに行けなかった私はちゃんと丸井くんに聞いてからお手洗いに向かっていた。
「む!そこの女子!!」
「んーと、ここを曲がるんだっけ…」
「返事をせんかぁ!!!」
「うわぁあ!!な、なんですかいきなり!」
突然耳元で聞こえて来た大きな声にバクバクと心臓が音を立てる。本当立海ってなんなの?まともな人いないの?
「朝丸井と廊下を走っていただろう」
「え…ああ、そういえば!」
なんだそうか、丸井くんの友達か。いやしかしなんというか年齢に似合わぬ顔つきの男の子だと思いながら話を聞く。
「廊下を走るとはたるんどるっ!怪我でもしたらどうするつもりだ」
「はい…すみませんでした」
「反省しているならいい。次から気をつけろ。ところでお前は丸井の友人か?見たことがない顔だが…」
「はい、丸井くんとは友達です。私、今日から転校して来ました跡部瑠衣です。よろしくお願いします!」
「そうか、転校生だったのだな。俺の名は真田弦一郎。よろしく頼む」
スッと手を差し出してくるのでそれに応えて握手をした。すると真田くんの後ろの方から言葉遣いがとても丁寧な男の子の声が聞こえてくる。
「真田君ではありませんか。おや?彼女は確か転校生の方でしたね」
「なんだ、知っていたのか?柳生」
「知っているも何も学園は朝から彼女の話題で持ちきりですよ」
「そ、そうなのか?」
「ええ。自己紹介が遅れましたね。私は柳生比呂士と申します。よろしくお願いしますね」
「私は跡部瑠衣です、よろしくお願いします!」
柳生くんとも握手を交わしながら私は思う。朝から私の話題で持ちきりってどういう事なのだろうと。そして今朝の出来事を思い出すとサァアと顔を青くした。そうだ、私確か幸村くんにお姫様抱っこされながら登校したんだ。そりゃ話題になる筈だ。
「あ、の…ところでその話題というのはどういう?」
「ああ、天使の様に華麗な女子生徒が二年生にやってきたとかそんなところですよ」
「そうですか…よかった…」
天使の様に〜のくだりは少し意味がわからないが幸村くんにお姫様抱っこされていた噂は流れなかったんだな、と一人ホッとしていると柳生くんが再び口を開いた。
「それと、幸村君がその女子生徒をお姫様抱っこして登校したとか、それぐらいですね」
いやそれぐらいじゃないよね?それ私この学園の女子に目の敵にされるやつじゃん?いや、やっぱ普通に噂は広まっちゃってたわけだ。悲しき。
「幸村がそんな事を…!た、たるんどるっ!!」
「ゆ、幸村くんのどこがたるんでるんですか!?全然細身ですよ、男の子はあれぐらいが普通です!」
「会話中に失礼します。真田君は体型の事を指しているのではなく、幸村君の行動が破廉恥だと言いたいんですよ跡部さん」
「え?…な、なるほど!!」
てっきり幸村くんがぽっちゃりとかデブとかそういう意味だと思った私は穴があったら入りたいととても思いました。絶対柳生くんに馬鹿だと思われた。
「跡部さんは噂通り可愛らしい女性ですね」
「ふぉ?」
微笑みながらそう言う柳生くんに変な声がもれる。今のこの状況でどうやったら可愛らしいに繋がるのかが本当に疑問だ。真田くんなんてなぜか顔を真っ赤にしている始末。
「そういえば跡部さんはお手洗いに行く途中でしたね。私と真田君はこれで失礼します。それでは跡部さん、アデュー」
嵐の如く去って行った柳生くんと真田くん。ア、アデュー?立海ではまた後で、みたいな感じの言葉なのか?
いや、それより。何故柳生くんは私がお手洗いに行く途中だと知っていたのだろうか。立海恐るべし、そう考えながら私はやっとお手洗いに辿り着いた。