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なんやかんやで転校初日のなんとも波乱な立海生活を乗り切った私は荷物をまとめて帰り支度に取り掛かる。

「よし!行くぞ瑠衣」

「え?」

「え?じゃねぇだろい」

「そうじゃそうじゃ!」

なんということか、光の速さで帰り支度を終わらせた丸井くんが私の目の前に立ってそう言う。仁王くんもそれに倣って私の近くに寄ってきた。しかし私の席はこの2人の集いの場なのか?まるでゴキブリホイホイのようにやってくる。例えは悪かったけど、私は普通に嬉しいのだ。

「行くってどこに?」

「はぁ?そんなの決まってんだろい」

「そうじゃそうじゃ」

だから一体どこに行くと決まってるんだ!?お前なに言ってんの?みたいな顔して言わないでほしい。

さっきから同じ言葉を繰り返す仁王くんは放置しよう。

「テニス部だよ お前どうせ部活決めてねぇんだろ?」

「部活?」

「おっと、瑠衣ちゃんもしや知らなかったんか?先生の話をちゃんと聞かない悪い子にはお仕置きが必要じゃのう」

仁王くんが両手をわきわきさせて近づいてくるのに対し私は鞄を盾にして後ずさる。一体その手は何なんだ…!?如何わしい手つきに嫌な予感を感じる。

「この学校にいる生徒は全員なにかしらの部活に入らなきゃいけねぇ決まりがあるんだよ」

「な、何それ!聞いてないよ、そんなの」

「何言ってんだよ、先生言ってたぞ?」

「瑠衣ちゃんは悪い子じゃのう ここはやっぱりお仕置きがいいと思うんじゃがどうするぜよブンちゃん」

「は、はあ?お仕置きって…っ!」

「おっ赤くなったぜよ 一体何を想像してたんじゃ?」

「ばっ!そんなエロい想像なんてするわけねぇだろい!」

「はて、俺はエロい想像なんて一言もいってないんじゃが」

「テメッ…仁王!!」

自分の髪の色のように赤い顔の丸井くんが仁王くんをど突く。元はと言えば仁王くんが変なことを言うから…!私は一体どんな反応を取るのが正解なのだろう。わからない、助けてお兄ちゃん!ううっ会いたい!いつものように頭を撫でて抱きしめてもらいたい。

「もう、丸井くん!用がないなら私帰るよ?」

「あー待て待て!すげえ大事な用があるんだよ!」

「まぁ、大事な用といってもテニス部の見学じゃがな」

「テニス部、か…」

「どーせ部活決まってないんだからマネージャーやれよい!な?」

両肩に手を乗せてくる丸井くんの目を見て私は考える。テニス部と言えば…たしかさっき出会ったエロ魔神こと柳くんが居るはず。…気が引けると言うか身の危険を感じると言うか…。

「柳の事は心配いらんぜよ 俺が守っちゃる」

「ごめんね仁王くん、すごく信用できない」

「ひどいぜよ 俺のどこが信用できないんじゃ」

「そりゃ全部だろい」

「柳くんもだけど仁王くんもセクハラしてくるからさ」

「あれはセクハラじゃなか スキンシップじゃよ」

涼しい顔でスキンシップだと答える仁王くんに既視感を覚えた。私の頭の中に丸眼鏡の関西弁が浮かんでくる。そうだ、この感覚は侑くんだ!いつも私の足を上から下までじっくり眺めてはお兄ちゃんに蹴飛ばされる侑くんのあの感じだ!

仁王くんの雰囲気が誰かに似てるとは思ったけど今その謎が解けた。立海に来てまで変態が近くにいるなんて私はゴキブリホイホイならず変態ホイホイなのだろうか?転校初日で仁王くんと柳くん、2人も変態を集めてしまうなんてお兄ちゃんに合わせる顔がない!

「やっべ、部活遅れるから行くぞ!」

「へ?きゃあ!ちょっ…丸井くんいきなり走り出さないで!転んじゃうよ」

「そんな事言ってる場合じゃねぇんだよ!真田の鉄拳が掛かってるんだ」

「私には関係ないよね!それ」

「まぁ細かいことはいいだろい!それにもし転びそうになっても俺がいるんだし心配いらねぇよ」

「俺も転びそうになったらよろしくの、ブンちゃん」

「ふざけんな、お前は自分でなんとかしろ!」

「そもそも、仁王くんって…はぁッ…転ばなそうだよね!」

「…今の吐息もう一回じゃ。エロかった」

「はっ、はぁ!?何言って…っるの仁王くん!」

「500円やるからさっきよりもうちょいエロめでお願いしたいんじゃが」

時間がないと走り出した丸井くんに腕を掴まれて今朝を思い出す。丸井くんは私と走るの好きだな。

いや、そんなことより今は仁王くんだ。話にならないぞこの男!どれだけエロの塊なんだ!?お兄ちゃんにスタンガンを持たされたけどこれは今使うべきものなのだろうか。

どうでもいいけど丸井くん、走るペース落としてほしいし変態発言してる仁王くんなんとかして!!

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