07

「なんじゃブンちゃんはヤキモチ妬きじゃのう。まーくん怖いナリ」

「だーっ!!そういうんじゃねぇよ!」

「わかったわかった。そういうことにしとくぜよ」

「ごめんね丸井くん。私が仁王くんに近付いちゃったから怒った?」

私の腕を引いて仁王くんから離らかす丸井くんに謝りながら彼を見ると、彼はまん丸のぱっちりした目を更に大きくさせた。

「お前なぁ…まだ俺が仁王の事好きとかそういう事考えてんのか?」

「え、だから私を仁王くんから離れるようにしたんじゃないの?」

「その発想はなかったぜよ」

「いいか瑠衣。仁王は普通に友達としては好きだけどな、恋愛的な意味じゃねーぞ?」

「知ってるよ!私、友達として好きなんだねって思ってたもん」

さすがの私でも丸井くんが仁王くんの事を恋愛的な意味で好きだと思ったわけじゃない。というかそんな誤解をされていたのか。いや、世の中にはそういう人もいると思うから別に気持ち悪いだなんて事は思わないよ。人それぞれだと思う。

「はーなんだ!よかった!さすがにねーよな!」

「そうだよ、私そんなバカに見える?」

「バカっていうかつい弄りたくなる顔しとるのう」

「仁王くんのそれはあんまり意味わからないかな」

「おう、こいつの言うこと半分くらいはスルーしてていいぜぃ」

「それは酷いナリ。傷ついたから瑠衣ちゃんに慰めてもらうかの」

わざとらしく手のひらで顔を覆ってテクテクと私の方まで歩いてくる仁王くんは私の前までくるとぷにっと私の唇を親指で押した。

「へ?」

「想像以上の柔らかさぜよ。病みつきになりそうじゃ」

「だからお前はさっきから何してんだよぃ!」

「羨ましいならブンちゃんもやりんしゃい。ふにふにじゃよ」

は?と一瞬丸井くんが仁王くんを呆れたような顔で見てから彼の視線が私に注がれた。正確に言うと私の唇に、だ。

「待って私はいいなんて言ってないからね!それに仁王くんっ!女の子に軽々しくそういうことしちゃダメ!」

「軽々しくじゃなければいいんか?」

「まぁ、そうなるのかな?」

「ほー。いいこと聞いたぜよ。じゃ、これはさっきのふにふにのお礼じゃ」

ちゅっ、と可愛らしい音が鳴った。私の前髪が仁王くんの手で掻き上げられて額に柔らかい感触がしたのと、近くにいた丸井くんが驚いた顔をして私と仁王くんを見ているのに段々と何が起こったのか脳が理解していく。

「な、なっ…!!」

理解したその時には、私は酸欠の金魚のようにパクパクと口を開いたり閉じたりするだけで。

「さーて、初っ端からサボるんじゃなかよ。瑠衣ちゃん」

大人っぽい笑い方をした仁王くんはそれだけ言うと屋上を出て行った。残された私と丸井くん。私はキスされた額に呆然と手を当てて、丸井くんは慌てて私に駆け寄ってきた。そんな波乱な立海生活のスタートだった。

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