08
二時間目が終わった後の昼休み。私はお手洗いを探していた。とりあえず廊下に出ればわかるだろうと出てみたはいいものの、なぜか見当たらない。
早速迷ってしまったのだろうか、こんなことになるなら丸井くんに教えてもらえばよかったと軽く後悔する。
「うわぁ、もう少しで授業始まっちゃう!もう、どこなの!」
くるっと方向転換しようと思い切り後ろを振り向くと顔面を強打した。
「いったい…!!」
「すまない、無事か?」
「あ、すいません!大丈夫です」
「そうか、それは良かった。そしてこんなところで出会えたのも何かの縁だ。跡部瑠衣」
私と思い切りぶつかった人はなぜか私の名前を知っていた。というかこの人目閉じてるのに前見えてるのかな?と疑問が湧いてくる。
「あの、なんでまた私なんかの」
「なんでまた私なんかの名前を知っているんですか?とお前は言う」
「ひぃ!」
思わずへんな悲鳴が漏れる。いやこの人なんで私が言おうとした事知ってるの?え?
「俺はデータを集めるのが趣味でな。だからお前のことはそれなりに知っている」
「…簡単に言うとあの、ストーカーみたいな…?」
控えめに、おずおずとそう言うと男の人は閉じていた目をカッ!と開いた。怖い、何でそこで開眼!?と恐怖で足が後ずさる。
「ストーカーではない。あくまでもデータ収集だ」
「そ、そうですか!!では私はこれで」
「待て。まだ話は終わっていない」
ガシッと腕を掴まれた私に逃げ場などなく、必然的に糸目さんと向かい合う形になる。
「俺の名は柳蓮二。テニス部に所属している。”これから”よろしく頼む」
”これから”ってなんで強調したんだろうか。もしかして新手のいじめか何かなのか。
「はぁ…そうですね、多分あんまり関わりないと思いますがよろしくお願いします」
「いや、これから嫌という程関わることになる確率96.5%だ」
「…………」
高ッ!!何、なんでいきなりそんな高確率叩き出してるんだろう。しかも嫌という程って、私やばいとこに転校しちゃったのだろうか。
「は、はは、柳くんってギャグ線?高いんだねー!ははは!」
「ギャグではない。事実だ。そして跡部、お前のことで一つわからないことがある。教えてはくれないだろうか」
「あ、質問?どうぞ」
「なら遠慮なく。お前のスリーサイズを教えてくれ」
一瞬その言葉にフリーズしてから私は踵を返してダッシュした。やばい、この人まじで稀に見るヤバイ人だ。逃げなきゃやばい。全力疾走で廊下を走るもテニス部らしい柳くんはそれはもうすごいスピードで追いかけてくる。リアル鬼ごっこか何かか。
「いやぁあああ!!誰かたすっ」
ついに肩に手をかけられて悲鳴をあげた私の口を柳くんの大きな手が塞ぐ。私の人生が間も無く幕を閉じる。最後にお兄ちゃんに会いたかったな。
「まるでこの世の終わりみたいな目をしているぞ」
いや誰のせいだよ、とは口が裂けても言えない。
「セ、セクハラで訴えますよ!」
「セクハラではない。本人の同意を得てサイズを測ろうとしているからな」
「その私が同意していないのでそれは無効です。私、本当にもう授業始まっちゃうから教室帰るね」
「まぁ今日のところは引きさがろう」
「どうもです」
「跡部」
「?」
「その胸ではよく肩が凝るだろう。改善したいのなら相談に乗る」
そう言って教室の方に歩いて行った柳くんに私は開いた口が塞がらなかった。どうやら私は稀に見るヤバイ人に目をつけられてしまったみたいだ。