02
 
「(はぁ。なんなんだ一体。……ん?私こんなに脚細かったっけ?)」

ふといつも見ている自分の脚とは思えないほどの綺麗な脚。色白で程よい肉がつき、無駄な毛など一切ない綺麗な脚。何事だと思いながら脚を触る。触った感触がするから確かに私の脚だ。だがしかし絶対におかしい。

そんな時、ふと目の前にいた人物に目を向けると私は言葉を失った。女優やハリウッドスターなど目じゃない程整った顔立ちの美少女がいたのだ。こんなにも綺麗な顔の女の子がいるのかとしばらく見つめていると、何故か目の前の美少女も私を見て動かない。そして悟った。

「(ああ、私がブスだからか)」

ここまで綺麗な顔の人間からすればブスが相当珍しいのだろう。途端に気分が悪くなりクルッと踵を返して出口に向かう。トイレから出る寸前に、もう一度顔を拝んでやろうと振り返ってさっきの美少女を見るとそこには誰もいなかった。ーーおかしい。絶対にいたはずなのに。さっき美少女がいたところへ戻るとそこには鏡があった。

「(鏡…?…………まさか…!!!)」

私は鏡の目の前に立ち、自分の顔を見ていったいなにが起こったのか分からなかった。現実的に考えてありえないことが今起こっている。恐る恐る鏡ごしに震える手で顔を触ると、しっかりと頬を触った感触がした。


そう、目の前にいた美少女とは自分のことだったのだ。あまりに非現実的なそれに暫くの間、状況が飲み込めなかった。自分でも嫌になるくらいブサイクな顔、太い手足、うねうねとした髪。その全てがまるで魔法にかけられたかのように絵に描いたような美少女になっている。ただただ信じられなかった。

「梨花っち〜?大丈夫ッスか!?倒れてないっスよね!」

そうだ、トイレの前で黄瀬を待たせていることを忘れていた。私はもう一度自分の顔を鏡でまじまじと見てから黄瀬の元へ向かった。

「ごめん、お待たせ」

「よかったー!遅かったから何かあったんじゃないかと心配だったんスよ!」

「心配してくれてありがとう」

待っててくれて更に心配もしてくれていたなんて黄瀬は優しい子だなと思いながらニコッと笑うと黄瀬は一瞬びっくりした顔をしてから次第に赤くなっていった。前のブサイクの顔で同じことをしてもこうにはならない。きもい、調子に乗るなと罵られるだけの毎日だった私には初めての体験で。全てが新鮮だった。

「…っ!あ〜もう梨花っち可愛すぎっス!!」

「黄瀬もかっこいいと思うよ」

「!?梨花っちが俺を殺しにかかってる…!!」

状況はよく飲み込めないけど、友達がいなかった私にとって話せる友人ができたことが嬉しかった。この顔のおかげだとしても、嬉しくてまるで神様がご褒美をくれたのだと勝手に解釈をして私の新しい人生がスタートを切った。

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