08
バゴッ!!!
「ぐっ……!!ゴホッゴホッゴホッ…!!」
考えるより先に身体が動いた。私は私の顎を掴んでいた男のみぞおちを空いている方の拳で殴っていた。私の拳をみぞおちに食らった男は漫画のワンシーンのようにその場に蹲って口から胃液を吐き出している。一体何がどうなっているんだ。こんな屈強そうな男を捩じ伏せるなど私ができるはずもない。だがこの状況は一体どう言うことなのだろうか、頭が追いつかない。
「こ、この女!顔がいいからって調子に乗りやがって!!」
ドゴッ!!
「くッ…ぐああ!!」
今度は向かってくる男の顔面を容赦無く殴っていた。身体が意図せず勝手に動いた。何が一体どうなっているんだ。この身体は何なんだ。
「ひぃい!!なんだよお前、ただの女じゃ」
「すまない、自分でもよくわかっていないんだ。勝手に身体が動いてね」
「ば、化け物…!!」
「……!」
”化け物”。結局容姿が変わろうと私はそう呼ばれる運命なのだろう。恐怖に怯えた男は地面に伸びている男2人を残して走り去って行く。さっきみぞおちにパンチを食らった男はいつの間にか気絶していた。こいつらも一緒に連れていけよと思ったところで突然パシッと腕を掴まれる。振り向くとそこにはお昼を共にしたカラフルな集団が勢揃いしていたのだ。そして私の腕を掴んでいるのは赤司だった。
「やあ。さっきぶりだね。部活はどうしたの?」
「そんな事より、これはどう言う事だ」
赤司は地面に転がる男達を見てそう言った。どう言うことかなんて、そんなの私の方が知りたい。この中で私が一番疑問なんだ。
「見た通り襲われそうになったから返り討ちにしただけだよ」
「ま、マジかよお前…そんな強かったのか?」
「今のはまぐれだよ」
「まぐれで繰り出せるような威力のパンチではなかったのだよ」
「ミドちんの言う通りだし。俺びっくりしてまいう棒落としちゃった」
「ごめん紫原、明日まいう棒を弁償するよ」
「そんなんいいし。てか紫原って何、いつもみたいに敦って呼んでよ」
「わかった」
以前のこの身体の持ち主は紫原の事を下の名前で呼んでいた事が判明した。それよりだ。この突き刺さる視線の居心地の悪さはどうすればいいのか。
「梨花さん、お強い方だったんですね」
「私、さっきの梨花ちゃん見て惚れちゃいそうだった!かっこよかったよね、きーちゃん!」
「え?そりゃもう!目にも留まらぬ速さでみぞおちにパンチ決めた梨花っちには痺れたっス!」
桃井にそう答えた黄瀬は少ししてから、ちがーう!と叫びだした。
「いや可笑しいっスよ!梨花っちあんな強かったんスか!?俺全然知らなかったんスけど」
「だろうね。私も今日はじめて殴り合いというものをしたからね」
「殴り合いと言うより、この2人が一方的にやられているだけだったけどね」
そう言ってクスッと笑った赤司に少し驚いた。この人は私が怖くないのだろうか。いや、赤司に限らずこの場にいる全員だ。こんな普通の女子が男2人を一発で仕留めたんだ、私が逆の立場なら気味悪がるだろう。