序 11



「花さそふ 嵐の庭の 雪ならで。ふりゆくものは 我が身なりけり」

濡れぶちに座って庭の桜が散る様子を見ていると、隣からそんな声が聞こえてきた。
見れば師匠が「どっこいしょ」と言って隣に腰を下ろしたところだった。

「何ですか?その歌」

彼にしてはやけにしんみりとした雰囲気の歌だ。気になってそう聞くと師匠はにかっと笑って答えた。

「俺の好きな歌」

「ま、らしくないっちゃらしくないんだけど」と言うあたり、自分でも似合わないと思っているらしい。

「桜を雪に見立てた歌で、なんか気に入っててさ」
「ふーん」

そのときは、さして気にもとめなかった。
歌を習い始めたばかりの頃で、歌の意味をよく知らなかったというのもある。
けど、歌の意味を知った今は、気になって仕方がない。


師匠(せんせい)。あんたはあの時、どんな気持ちであの歌を歌ったんだ?
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